【QUICK Market Eyes 川口究】株式・金融市場はバイデン米大統領の誕生を織り込み始めた。民主党候補のバイデン前副大統領の勝利、環境政策の推進を見越して先回り的にクリーンエネルギーセクターなどに投資資金が流入している。バイデン氏が掲げる環境政策の目標はハードルが高いため、日本企業の高い環境技術が注目され、出遅れた日本のESG(環境・社会・企業統治)銘柄の買いも期待出来そうだ。
■化石燃料からクリーンエネルギーへ
米大統領選の争点の一つは環境問題だ。トランプ大統領が排ガス規制緩和や化石燃料開発の推進など掲げる一方で、バイデン氏は2035年に発電部門の温暖化ガス排出ゼロや2兆ドルのクリーンエネルギー投資を掲げる。
両分野に関する上場投資信託(ETF)の資金の流出入状況を比較すると、興味深い結果となった。クリーンエネルギーセクターのグローバル株式などに投資する「iShares Global Clean Energy ETF(ICLN)」は10月2日以降、資金流入が増加している。一方、エネルギーセクターのグローバル株式に投資する「iShares Global Energy ETF(IXC)」は資金が流出に転じている。化石燃料からクリーンエネルギーへと投資資金のシフトが加速しており、バイデン勝利、クリーンエネルギー政策の推進というシナリオを描き、先回り的に投資マネーが流入している。
■「バイデンベア」の予想減少
実際、バイデン氏が優位との世論調査が足元で増えている。米紙ワシントンポストと米ABCニュースの全米世帯世論調査ではバイデン氏の支持率はトランプ氏を12ポイント上回った。また米選挙分析サイト、ファイブ・サーティー・エイトは13日時点でバイデン氏が選挙で勝つ可能性は87%と試算した。
11月3日の米大統領選挙でバイデン氏が勝利した場合に米国株式相場が下落するとの投資家懸念は急速に後退している。RBCキャピタル・マーケッツが機関投資家を対象に9月に実施した調査では、バイデン氏が勝利した場合に「バイデンベア(相場下落)」を予想した人の割合は41%で6月調査時点より19ポイント減少した。
■日本企業の技術がキーデバイスに
バイデン氏の勝利は、出遅れが顕著な日本のESG関連銘柄にとってもプラスとなりそうだ。SMBC日興証券はレポートで、「バイデン氏が掲げる環境政策の目標はハードルが高いため、日本の電子部品メーカーの軽薄短小、低消費電力化技術が不可欠となる。このほか、産業用エレクトロニクス企業のパワー半導体(車載、鉄道、産業向けなど)も恩恵を受ける」と、日本企業の技術がキーデバイスとなる可能性を秘めているとみている。
<金融用語>
ESGとは
ESGは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をつなげた言葉で、「責任投資」における重大な課題を指す。 PRIや日本版スチュワードシップ・コードでも、サステナビリティーと長期的な企業価値向上を求める中で、考慮すべき要素としている。 ESGの具体的な項目は、国連や国際機関が議論してきたグローバルな課題を基礎的な枠組みとしており、企業のビジネス活動における持続可能性への取り組みの枠組みである国連グローバル・コンパクトの10原則と近いものが多い。 ESGを考慮した投資(ESG投資または責任投資)は、「社会貢献」を評価する従来のSRIとは異なり、企業が長期的に業績を伸ばす結果としてリターンを生むことを目指す「受託者責任」を明示するものである。その利益を生むために、まず社会から要請される課題への対応を果たし、それによって事業におけるリスクを軽減できる体質を持つこと、さらに本業での価値創造が実現されるシナリオを描けることなどが評価の尺度となる。(QUICK ESG研究所)