【NQNロンドン 椎名遥香】トルコリラへの売り圧力が一段と高まっている。トルコ中央銀行は10月22日、すでに金融の大幅な引き締めを達成したとして、市場予想に反して政策金利の現状維持を決めた。9月のサプライズ利上げを機に、インフレ抑制に真剣に取り組み始めたと期待した投資家の失望を招き、リラの対ドル相場は最安値を更新した。
■「当面、利上げの予定はない」
トルコ中銀は金融政策決定会合を開き、政策金利の1週間物レポ金利を年10.25%で据え置くと発表した。市場では2%程度の利上げが予想されていた。中銀は政策金利の事実上の上限とされる後期流動性貸出金利については13.25%から14.75%に引き上げ、日々のオペレーション(市場操作)を通じて市中銀行の資金調達コストを調整する余地を広げた。それでも、政策金利を引き上げないと「引き締めのメッセージとしては足りない」(みずほ銀行欧州資金部の本多秀俊シニア為替ストラテジスト)。
トルコのインフレ率は9月時点で11.75%と政策金利を上回る状態が続いているが、22日公表の声明によると、中銀は金融状況について「金融政策と流動性管理の措置により、大幅な引き締めが達成されている」と判断した。市場では「当面、利上げの予定はないとのサイン」(オアンダのクレイグ・アーラム・シニアマーケットアナリスト)と受け止められた。中銀は9月に景気刺激を優先する政権の意向に反して、2年ぶりの利上げに踏み切った。インフレ抑制に向けてようやく動き出したと評価する声もあっただけに、早くも利上げが中断されたことで失望が広がった。
22日の外国為替市場では一時1ドル=7.97リラ台後半と前日から2%超リラ安・ドル高が進み、リラは対ドルで最安値を更新した。トルコリラの不安材料は他にもある。トルコと関係が深いアゼルバイジャンと、ロシアに近いアルメニアの領土紛争が収まらず、トルコとロシアの関係悪化が警戒されている。ガス田権益を巡るギリシャとの対立で欧州連合(EU)から制裁を課せられるリスクも取り沙汰される。リラは軟調な推移が続きそうだ。
<金融用語>
インフレ(インフレーション)とは
世の中の全体的な財・サービスを代表する価格指数(物価)が継続して上昇する状態をさす。英語表記はInflation。インフレと略されることも多い。 一般的には、需要が供給を上回る、あるいは賃金や原材料費が高騰する等の原因により起こるとされる。景気回復にともなって消費活動が活発化し、モノがよく売れることから企業の生産活動が活発となり、従業員の給与も上がる、というように社会が安定している状態での物価上昇は経済の成長を促す。ただし、物価上昇に伴いお金の価値が下がる一方、すべての財・サービスは同率に価格上昇するわけではないため、給与の上昇が物価の上昇に追いつかず、購買力の低下を促すことにもなる。また、短期間で物価が数倍にも高騰するような過度なインフレーションは貨幣価値の低下をもたらすだけでなく、所得・資産の再分配にも弊害を招く。このようなハイパー・インフレーションは、歴史的にも世界経済に深刻な打撃を与えてきた。 インフレーションの水準を適正に管理することは、経済政策・金融政策運用上の大きなテーマの一つとなっている。