【NQNニューヨーク 張間正義】アップルの2020年7~9月期決算の売上高は事前の減収予想に反し、6四半期連続で増収を確保した。新型コロナウイルス禍に対し、強い抵抗力をみせたが、市場の目線は厳しかった。高速通信規格「5G」に初めて対応した「iPhone12」の販売動向がみえてくるまでアップル株の値動きはボックス相場入りしそうだ。
■「iPhone」売上高が市場予想を下回る
4~6月期に続き新型コロナに伴う在宅需要でパソコン「Mac」やタブレット端末「iPad」の販売が大きく伸びた。継続課金型のビジネスであるサービス部門の売上高は前年同期比16%増の145億4900万ドル。ティム・クック最高経営責任者(CEO)は「Macとサービス部門の売上高はともに過去最高だ」と胸を張る。
だが、市場の反応は冷めていた。主力商品の「iPhone」の売上高は21%減の264億4400万ドルと市場予想(280億7800万ドル)を下回った。今月前半に発表した5Gに初めて対応したiPhone12の発売は10月以降。例年9月に発売される新機種が今年は新型コロナの影響で後ずれし、消費者の買い控えが予想以上に起きたようだ。
■市場の失望理由
7~9月期のiPhoneの販売下振れを事前に指摘していたモルガン・スタンレーのケイティ・ヒューバティ氏の分析では、例年7~9月期の売上高の47%程度を新機種が占めるという。今年は新機種効果が遅れて出てくるとはいえ、主力製品の売り上げ2割減に対して、市場は売りで反応せざるを得なかったようだ。
市場の失望を買った2つ目の理由は10~12月期業績見通しの発表見送りだ。四半期の業績見通しを見送るのは3四半期連続。「7~9月期決算の発表と同時に強気の10~12月期見通しを出してくる」(米投資銀行エバコアISI)との期待も市場の一部であった。
アップルが新機種の販売動向をどの程度見積もっているのかをみる上で10~12月期予想を注目していただけに、見送りは落胆につながった。決算会見でクックCEOは欧米での新型コロナの感染再拡大を理由に挙げ「見通しを発表する環境とは思えない」と述べた。
【アップル決算の主な項目】
決算項目 | 20年7~9月期 | 市場予想 |
売上高 | 646億9800万ドル(1%増) | 636億9600万ドル |
純利益 | 126億7300万ドル(7%減) | 121億9800万ドル |
1株利益 | 0.73ドル | 0.71ドル |
(注)カッコ内は前年同期比、予想はQUICK・ファクトセット。
【主要部門の売上高】
主要部門 | 20年7~9月期 | 市場予想 |
iPhone | 264億4400万ドル(21%減) | 280億7800万ドル |
サービス | 145億4900万ドル(16%増) | 141億900万ドル |
Mac | 90億3200万ドル(29%増) | 78億1900万ドル |
iPad | 67億9700万ドル(46%増) | 60億1500万ドル |
ウエアラブルなど | 78億7600万ドル(21%増) | 71億7100万ドル |
(注)カッコ内は前年同期比、予想はQUICK・ファクトセット。
■「スーパーサイクルが始まる」
もっとも、市場が5G対応の新機種にかける期待は大きい。アップル株に強気なウェドブッシュ証券のアナリスト、ダニエル・アイブス氏は消費者に大規模な買い替えを促す「スーパーサイクルが始まる」と指摘する。同氏の試算では世界で利用されている9億5000万台の4割弱にあたる3億5000万台が今後1年から1年半で新機種への切り替えが進む。
市場では10~12月期のiPhone売上高は7~9月期の2.3倍となる609億ドル程度を見込んでいる。決算会見でクックCEOは新機種の販売見通しに対し、通信各社の販売促進などもあり「良いスタートを切れた」と述べた。
決算発表を受け、米株式市場の時間外取引でアップルの株価は下落している。29日の通常取引を前日比3.7%高の115.32ドルで終えた後、終値を5%超下回る109ドル台で推移している。株価チャート上は9月2日に付けた上場来高値(137.98ドル)と13日(125.39ドル)を2つの頂点とた「ダブルトップ」の可能性が濃厚となっている。典型的な売りサインとされ、市場の警戒も高まりやすい。iPhoneのスーパーサイクルが本物かどうかが確認できる来年1月の10~12月期決算の発表まで、株価の本格的な上昇は当面期待しづらくなった。