【NQNニューヨーク 張間正義】米大統領選の投開票が明日に迫った。世論調査では民主党のバイデン前副大統領が共和党のトランプ米大統領をリードしており、同時に実施される上下両院選を合わせて民主党が全勝する可能性が意識されている。選挙結果によって経済政策やマーケットにどんな影響が出るのか、いくつかのシナリオに分けて分析した。
■主な選挙結果のパターンと予想される発生確率
(1) | (2) | (3) | (4) | (5) | |
大統領 | バイデン | バイデン | トランプ | トランプ | トランプ |
上院 | 民主 | 共和 | 共和 | 共和 | 民主 |
下院 | 民主 | 民主 | 民主 | 共和 | 民主 |
確率 | 71% | 16% | 7% | 3% | 2% |
(出所)ファイブサーティーエイト、米国野村証券
(1)ブルーウエーブ――バイデン大統領誕生、上下両院とも民主党が過半数
大統領選と上下両院選のすべてで民主党が勝利する「ブルーウエーブ」では財政政策は拡張的になり、来年1月の新政権発足後に2兆ドル規模の追加経済対策の策定に動きそうだ。バイデン氏は再生可能エネルギーなど環境インフラに2兆ドルの投資を公約に掲げる。成立時期は協議の進展に左右されるが、すべて実現すれば経済対策との合計で4兆ドルを超える規模となる。
バイデン氏は法人税率引き上げや富裕層の課税強化など増税策を掲げている。ただ、増税には共和党の抵抗も予想され、景気支援を優先して税制改革の実施は22年以降になる公算が大きい。
来年の景気は大規模な財政政策に支えられる。オックスフォード・エコノミクスのグレゴリー・ダコ氏は「年4.9%の高い経済成長率が見込め、米国内総生産(GDP)の年率換算の水準は21年半ばに新型コロナウイルスまん延前の19年末を回復する」と予想する。
銀行や資本財など景気敏感が多いバリュー(割安)株に資金が向かう半面、株価指標面で割高感があるハイテク株からは資金流出する可能性がある。大規模経済対策による国債増発を見越して「長期金利は最低でも0.2%上昇する」(JPモルガンのジェイ・バリー氏)との見方がある。長期金利の上昇も、高PER(株価収益率)であるハイテク株の逆風になりそうだ。
ただ、ブルーウエーブだからといって民主党の政策が何でも実行できるわけではない。米上院には少数政党が議事進行を妨害する「フィリバスター」と呼ばれる独特の仕組みがある。上院共和党の抵抗に遭えば、バイデン氏の政策は大幅な修正を迫られる可能性がある。
フィリバスターを回避するために民主党は5分の3の議席数(60議席)が必要だが、現実的ではない。回避するには2つの選択肢がある。1つは「財政調整法」と呼ばれる制度の利用だ。同法に基づけば過半数の賛成で予算を通すことができる。ただ、税制や社会保障など義務的経費に限定される。もうひとつがフィリバスター自体の廃止だ。ゴールドマン・サックスのアレック・フィリップス氏は「民主党が53議席以上で勝利すれば廃止に動く可能性は高まる」とみる。
市場には、バイデン氏が政権を握れば対中関係は改善に向かうとの期待がある。同氏も人権保護などの観点からは中国には強硬姿勢で臨むとされるが「中国の市場開放を条件に対中制裁関税を撤廃する可能性がある」(JPモルガン)ためだ。トランプ政権で悪化した米中関係の修復が進めば米中双方の経済にとって恩恵が及ぶだろう。