米大統領選で民主党のバイデン前副大統領の当選が確実となった。勝敗の決着が長期化するとの懸念が後退し、11月9日のアジア市場では上海株が一時2%高、香港や韓国株が同1.8%高まで上げた。大統領選を受けた株高は一時的な現象なのか、米中関係に変化は生じそうなのか。現地の市場関係者に聞いた。
■「米中関係、劇的改善なくも制裁方法に変化か」
香港の大唐資本証券のローザ・リー最高投資責任者(CIO)
バイデン氏の当選確実は、香港をはじめアジアの株式市場にとっては不透明感の後退と買い安心感の増加につながる好材料とみている。投資家はまず何よりも安定を望むため、米国の政治状況の安定が早ければ早いほど、世界の投資環境にとって好ましい。
米中関係は劇的な改善はないかもしれないが、米国の対中制裁の方法が変わっていく可能性がある。中国の台頭に対する危機感は米国では党派を超えて共有されており、民主党政権でも対中姿勢の方向そのものは変わらないだろう。ただ、これまでのような中国の個別企業に対する制裁から、中国が不当または不平等に権益を得ている部分を更正させる動きに変わる可能性がある。
株式相場に関しては、香港・中国本土株はともに、年内は基本的に上昇基調だとみている。ただ、香港のハンセン指数(9日午前の終値は2万6129)は、冬季に新型コロナウイルスの感染が再拡大するかどうかなど不透明要素もあり、心理的な節目である3万の回復までは難しそうだ。
一方、中国本土は既に新型コロナの封じ込めに成功し、年内はクリスマス休暇のある欧米よりも製造業などの稼働日数が多いため、景気改善の継続が見込まれる。上海総合指数は年内に年初来高値(8月18日に付けた3451.0894)を更新する可能性がある。
■「香港株は短期的には調整か 対中圧力続き21年の本土株の重荷に」
香港の茂宸証券の丁世民・第一副総裁
米大統領選でのバイデン氏当確を受けて9日の香港株式市場でハンセン指数が上昇しているが、これは米大統領選の結果が決まった翌日は米株式相場が上昇するという過去の経験則を受けた動きだ(アジア時間9日の米株価指数先物が上昇)。金融会社アント・グループの上場延期が香港の市場センチメントに打撃を与えていたほか、(12月期決算期末の)年末に向けてファンドマネジャーによる買いが入りやすい時期ということもあり、市場はプラスの材料に反応しやすい状況となっている。
ただハンセン指数は、2週間に満たない短期間で約2000ポイント上げていたため、1000ポイント分は調整しそうだ。短期でみると、欧州連合(EU)による40億ドル相当の米国製品への報復関税が10日にも発動されるとみられ、米国側の対抗措置を招く可能性がある。
またバイデン氏の当選は、必ずしも米中関係の大幅な改善につながるとは限らない。トランプ政権では中国に限らず、EUやカナダなどの同盟国に対しても貿易戦争を起こした。バイデン氏は同盟国との関係は修復するが、中国に対してはむしろ同盟国との協力を強化したうえで対抗してくるとみている。副大統領に指名されているカマラ・ハリス氏は、トランプ大統領よりも対中強硬派だ。このためバイデン政権では米中が相互に課してきた追加関税は撤廃するだろうが、金融やハイテク分野における争いは続くとみている。
9日の中国本土の株式相場もバイデン氏当確を受けて上げている。だが上述の理由から、バイデン氏の当選はどちらかというと来年の中国本土株にとってマイナスに働くとみている。(NQN香港 桶本典子、林千夏)