【QUICK Market Eyes 川口究】2050年に向けて世界の温暖化ガスの排出をゼロにする動きが本格化している。日米で政権交代したことを機に目玉政策として挙げられた。企業の脱炭素に向けた事業の方向転換も顕著で、ESGやクリーンエネルギー関連への資金流入も目立つ。Green Society (グリーン社会)の実現に向けた投資は今後ますます加速していきそうだ。
■パリ協定に復帰
米大統領選で当選を確実にしたバイデン前副大統領は、2021年1月20日の大統領就任初日にパリ協定に復帰すると宣言した。「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5度以内に抑えるためには、50年ごろに世界の温暖化ガスの排出を、森林などが吸収する量と差し引いてゼロにする必要があるとしている。また同氏は、環境・インフラ部門に4年間で過去最大規模の2兆ドルという巨額投資をすることを公約に掲げる。株式市場ではバイデン米大統領の誕生を織り込む動きになりつつある。ESG(環境・社会・企業統治)や、クリーンエネルギー企業へ投資する上場投資信託(ETF)へ資金流入が続いている。
■Green Societyの実現
企業の脱炭素に向けた方向転換も顕著だ。東芝(6502)が石炭火力発電所の新規建設から撤退し、事業の軸足を再生可能エネルギーに移す。海外の重電大手でも事業縮小が進めている。ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンス・エナジーが、石炭火力発電所の新設事業から撤退すると発表した。
国内株式市場ではバイデン銘柄といわれるイーレックス(9517)、レノバ(9519)、ウエストHD(1407)などの躍進が著しい。3社を指数化したバスケットはバイデン氏の支持率がトランプ大統領のそれに対して差を広げ、当選がより意識されるようになった10月5日以降に急伸している。大和証券は4つ掲げる2021年の投資テーマの1つにGreen Society (グリーン社会)を挙げており、世界景気への回復を背景に、こうしテーマへの投資が日本株の上昇に寄与すると見込む。
![※バイデン銘柄3社バスケットとTOPIX](https://qmwstorage01.blob.core.windows.net/labomediacollection/sites/5/2020/11/73dfef23d0314642125434129e3d91dd.jpg)
米国以外では、菅政権も温暖化ガスについて50年までの排出ゼロを政府目標に掲げている。世界最大の排出国である中国も60年にCO2をゼロにする目標を掲げた。中国は35年をめどに新車販売のすべてを環境対応車にすることを検討するほか、水素エネルギーのインフラ整備にも注力する。欧州連合(EU)は新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた経済を環境投資で立て直す「グリーンリカバリー」を打ち出しており、GreenSociety (グリーン社会)の実現に向けた投資が加速していきそうだ。
<金融用語>
パリ協定とは
パリ協定とは、2020年以降の温室効果ガス排出削減等、温暖化対策を定めた国際協定。世界全体の平均気温の上昇を工業化以前に比べて2℃より十分に低く保つ(2度目標)とともに、1.5℃に抑える努力を追求する。2015年12月国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択され、2016年11月発効した。これまでに147の国と地域が批准している。 気候変動は、国際社会、世界経済が直面する最重要課題の1つであり、従来から責任投資を実践する投資家を中心に、企業が対応すべきESG課題の最重要課題の1つとされてきた。パリ協定第3条には「温室効果ガスについて低排出で気候に対して強靭である発展に向かう方針に資金の流れを適合させる」とあり、投資家の動きを後押ししている。パリ協定の採択以降この協定を重視し、「SBT(Science Based Targets)」など、2度目標に沿った企業行動に言及する投資家も増えている。(QUICK ESG研究所)