【NQNニューヨーク 張間正義】画像処理半導体(GPU)大手のエヌビディアが、高い評価にたがわぬ成長を続けている。11月18日に発表した2020年8~10月期決算は売上高と純利益が過去最高となった。2本柱のゲームとデータセンターがけん引した。同社の製品とサービスへの総需要を示す「実現可能な最大市場(TAM)」の拡大が、長期的な成長の確度を高めている。
■年末商戦に向け強い需要
2本柱の中でも足元で業績拡大の勢いが増しているのがゲームだ。ゲーム向けの売上高は5~7月期に比べ37%増とデータセンター向けの8%増を大きく上回った。9月に発売した現実空間に近い映像表現を可能にするGPU「GeForce RTX30シリーズ」が好調だった。
ジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は10月、「(RTX30シリーズのうち)3080と3090の供給不足は年末まで続く」と発言した。市場では正規料金を上回るプレミアム価格で流通している。カセンド証券のエリック・ロス氏は、ゲーム機購入が増える年末商戦に向けて強い需要が続き「11月~21年1月期業績も大きく押し上げる」と指摘する。
■マイクロソフトもエヌビディア製品に
もう1つの成長の柱、データセンター向けも見通しは明るい。エヌビディアは10月、2024年にデータセンター向け半導体の市場規模は1000億ドルになるとの予想を示した。従来の500億ドルから一気に2倍に上方修正した。ウェドブッシュ証券のマット・ブライソン氏は「TAMの長期的な拡大が成長を一段と促す」と指摘する。
データセンター向けは人工知能(AI)に使うGPUが中心で、技術力は他社よりも進んでいるとみられる。マイクロソフトやグーグルなど「ハイパー・スケーラー」と呼ばれる大手データセンター運営会社もエヌビディア製品を使わざるを得ない状況だ。
■AI関連開発のプラットフォーマーに
1000億ドル市場で一段とシェアを拡大する布石も打っている。10月にデータ・プロセッシング・ユニット(DPU)と呼ぶ新たな処理装置を発表した。DPUはストレージやセキュリティー関連の処理をCPU(中央演算処理装置)に代わって引き受ける。CPUの負荷が下がり、データセンターの性能向上につながる。DPUが新たな法人顧客の開拓に寄与するだろう。
米証券オッペンハイマーのリック・シェーファー氏は「エヌビディアは単なる半導体メーカーから、AI関連の開発を手がけるプラットフォーマーになりつつある」と指摘する。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長もAIに特化したGPUやDPUの開発を受け「エヌビディアの時代が来る」と太鼓判を押す。
■決算発表
【決算の主な項目】
項目 | 8~10月期 | 市場予想 |
売上高 | 47億2600万ドル(57%増) | 44億1500万ドル |
純利益 | 13億3600万ドル(49%増) | 10億5800万ドル |
1株利益 | 2.91ドル | 2.58ドル |
(注)カッコ内は前年同期比。
【部門別売上高】
部門 | 8~10月期 | 市場予想 |
ゲーム | 22億7100万ドル(37%) | 20億5600万ドル |
データセンター | 19億ドル(2.6倍) | 18億3700万ドル |
映像化 | 2億3600万ドル(▲27%) | 2億1500万ドル |
自動車 | 1億2500万ドル(▲23%) | 1億1000万ドル |
OEMその他 | 1億9400万ドル(36%) | 1億6000万ドル |
(注)カッコ内は前年同期比増減率。▲は減。市場予想は17日時点でQUICK・ファクトセットまとめ。
【11月~21年1月期見通し】
項目 | 見通し | 市場予想 |
売上高 | 47億400万ドル~48億9600万ドル | 44億300万ドル |
粗利益率 | 65.0~66.0% | 65.30% |
11月~21年1月期の売上高は48億ドル前後を見込む。ソニーとマイクロソフトがともにゲーム機の新製品を投入し、ゲーム向けは年末商戦の需要が期待できそうだ。3四半期連続で過去最高の売上高となる可能性もある。
■発表後の株価は下落
ただ、決算への市場の反応は鈍い。決算発表直後の時間外取引では、株価は通常取引の終値から3%程度下落している。株価水準が高いエヌビディアは決算のたびに株式分割の思惑が高まるが、今回も発表はなかった。こうした面も短期投資家の売りを促している。
50倍台後半の予想株価収益率(PER)は1999年のナスダック市場への上場以来、実質的には最高水準だ。一方で、年間の1株利益は過去3年で2倍となった。市場は今後も同じペースでの増益が続くと見込んでいる。長期的な高い成長期待を背景にすれば、調整局面での下押しは限定的になりそうだ。
<金融用語>
PERとは
PERとは、Price Earnings Ratioの略称で和訳は株価収益率。株価と企業の収益力を比較することによって株式の投資価値を判断する際に利用される尺度である。時価総額÷純利益、もしくは、株価÷一株当たり利益(EPS)で算出される。例えば、株価が500円で、一株当たり利益が50円ならば、PERは10倍である。 一般的には、市場平均との比較や、その会社の過去のレンジとの比較で割高・割安を判断する場合が多い。どのくらいのPERが適当かについての基準はなく、国際比較をする場合には、マクロ的な金利水準はもとより、各国の税制、企業会計の慣行などを考慮する必要がある。 なお、一株当たり利益(EPS)は純利益(単独決算は税引き利益)を発行済株式数で割って求める。以前は「自社株を含めた発行済株式数」で計算していたが、「自社株を除く発行済株式数」で計算する方法が主流になりつつある。企業の株主還元策として自社株を買い消却する動きが拡大しており、より実態に近い投資指標にするための措置である。