【NQNニューヨーク 戸部実華】11月19日の米債券市場で長期債相場は反発し、10年物国債利回りは前日比0.04%低い0.83%で終えた。新型コロナウイルスのワクチン実用化の期待は続いているが、ワクチンが市場に出回るまでの景気悪化観測が強まり、債券買いが優勢だった。米10年債利回りは節目の「1%」への到達がまた一歩遠ざかった。
■マイナス成長の可能性も
「米労働市場の完全回復は遠い」(ハイ・フリクエンシー・エコノミクス)。19日朝発表の週間の新規失業保険申請件数を受け、市場では湿った雰囲気が漂った。8~14日の週は74万2000件と前の週から5週ぶりに増え、市場予想(71万件程度)も上回った。各州は外出制限など規制を導入し始めており「感染のウエーブが収まるまで続く増加基調の始まりだ」(パンテオン・マクロエコノミクス)と受け止められた。
フィラデルフィア連銀が19日に発表した11月の製造業景況指数は2カ月ぶりに低下した。個別項目では「雇用者数」が改善するなど底堅さをみせたが、将来の見通しは弱含んだ。ダラス連銀のカプラン総裁は19日の米メディアのインタビューで10~12月期の米経済について「感染再拡大で人の動きが落ち込めばマイナス成長となる可能性もある」との見方を示し、先行き警戒感が意識されやすかった。
■ホテルは経営困難に
米国では新型コロナ感染による累計死者数が25万人を超えた。連日で1日あたりの新規感染者数が16万~17万人ほどとなるなか、来週26日には例年親族が集まる大イベントである感謝祭を控える。米自動車協会(AAA)は今年の感謝祭時期(25~29日)の旅行者数は19年と比べ9.7%減り、減少幅は金融危機下の08年以来の大きさになると予想。飛行機を利用した旅行は47.5%減、自動車でも4.3%減るとみる。
サービス業を中心とした企業業績への影響が懸念されるなか、米ホテル・ロッジング協会(AHLA)の調査(10~13日実施)によると、71%のホテルが政府からの追加支援なしでは今後6カ月後に経営を続けることは困難との見方を示したという。同調査では77%のホテルが追加の一時解雇(レイオフ)を余儀なくされると回答した。
■米追加経済対策、年内何らか成立?
米追加経済対策を巡っては19日午後に民主党上院トップのシューマー院内総務が、共和党上院トップのマコネル院内総務が「協議再開で合意した」と述べたと伝わった。年内に何らかの対策が成立するとの見方はあるが、「2021年1~3月期後半に最大1兆ドル程度の規模で承認されるだろう」(JPモルガン)との予想もあり、規模や成立時期の予測は難しい。
19日に英アストラゼネカがオックスフォード大学と開発中の新型コロナワクチンの臨床試験の初期データで高齢者を含む被験者に抗体反応が確認されたと発表し、連日でワクチン開発を巡る好材料が出た。それでも米国債には買いが優勢だった。ワクチンが出回るまでの景気悪化懸念が拭えない間は「米長期金利は上昇しにくい環境が続きそうだ」(CIBCキャピタル・マーケッツのイアン・ポリック氏)との見方が増えている。
<金融用語>
製造業景況指数とは
製造業景況指数とは、米国の12の地区連邦銀行の一つであるフィラデルフィア連邦準備銀行が管轄する地区内(ペンシルベニア、ニュージャージー、デラウェアの三州)の製造業における景況感を調査、指数化したもので毎月第三木曜日に公表される。0を分岐点として、指数がプラスになれば景況感が改善、マイナスになれば悪化していることを示す。同様の指数としてニューヨーク連邦準備銀行が公表するニューヨーク連銀製造業景況指数がある。 全米をカバーする米国サプライマネジメント協会(ISM)が公表するISM製造業景況感指数との相関性が高い傾向がある。