【NQNニューヨーク 古江敦子】来年1月に発足する米国の新政権への移行が始まり、政治空白への懸念後退が投資家のリスク選好姿勢を強めた。大統領選の当選が確実になったバイデン前副大統領の政権下では、米連邦準備理事会(FRB)前議長のイエレン氏が財務長官に起用される見通しだ。金融政策と財政の両面から経済支援が進むとの楽観が広がったが、金利は動意に乏しかった。
■米10年債利回りの上昇は0.03%
イエレン氏の財務長官起用を巡っては「政治的に穏健で、景気に配慮するハト派のイエレン氏が財務長官になれば投資環境にはプラスで安心感がある」(アクション・エコノミクスのキム・ルパート氏)と歓迎ムードが広がった。「米国での徴税や他国への制裁、新型コロナウイルス禍での経済政策の監督など幅広くこなす財務長官としてイエレン氏は適役。米議会も難なく承認するはず」(スタイフェル・ニコラスのリンゼイ・ピエグザ氏)との期待もある。
そんな楽観もあって米株式相場が急伸した一方、米長期金利の指標である10年物国債利回りは0.88%と前日比の上昇は0.03%(価格は下落)にとどまった。イエレン財務長官誕生による景気回復の観測やバイデン政権下での財政出動に伴う国債増発を織り込む債券売り(金利上昇)が進む気配は乏しい。
■不透明感は拭えない
背景には、追加の経済対策への不透明感がある。MFRのカール・スティーン氏は「財務長官には経済対策の規模で米議会と交渉する任務はない」と指摘し、現在の財務長官であるムニューシン氏が米共和党上院トップのマコネル院内総務と交渉していたのはむしろ異例と話す。スティーン氏は「誰が財務長官になろうと、上院を共和党が占めれば政策策定は遅れ、支援は小規模になり経済の回復ペースが鈍る」ともらす。
コンファレンス・ボードが24日に発表した11月の米消費者信頼感指数は96.1と前月から5.3ポイント低下し、新型コロナがまん延する前の2月(132.6)を下回り続ける。同社のリン・フランコ氏は「消費者は来年にかけて景気や雇用が勢いを増すとはみておらず、新型コロナの再拡大で見通しは悪化している」と指摘。追加対策なしでは景気の不透明感は拭えそうにない。
年末には失業保険の13週延長措置、住宅や学生ローンの返済猶予などコロナ禍での経済支援策が期限切れとなる。米議会は感謝祭休暇が明ける来週から連邦政府予算について協議するが、どの程度の経済対策が決まるのかは不透明だ。現在のつなぎ予算の期限は12月11日。可能性は低いが、協議が難航すれば政府機関の閉鎖もありうる。
「イエレン氏が財務長官となれば、中小企業への融資などの支援策でFRBと米政府の連携が再び強まり、米景気を支える」(BMOキャピタル・マーケッツのイアン・リンジェン氏)との期待は根強い。来年上期にも10年債利回りは1%を上回る動きになるとの予想は多いが、当面は経済対策の不透明感が引き続き金利上昇を抑えそうだ。
<金融用語>
消費者信頼感指数とは
消費者信頼感指数とは、消費者の観点から米国経済の健全性を図る指標。米国の民間調査会社コンファレンス・ボードが毎月、現在の景気・雇用情勢や6ヵ月後の景気・雇用情勢・家計所得の見通しについて5000世帯を対象にアンケート調査し、1985年を100として指数化したもの。個人消費の先行指標とされ、消費者心理を反映した指数。同指数に先行して発表され、同じく米国の消費者マインドを指数化した指標として、ミシガン大学消費者態度指数がある。