【NQNニューヨーク 張間正義】米株式相場が最高値圏に浮上する一方、米長期金利の上昇は鈍い。株高が景気回復を反映しているなら、同時に金利上昇が加速してもおかしくない。だが、現在の低金利は米連邦準備理事会(FRB)が抑え込んでいるためであり、同時に上昇するのではなく低金利がスピルオーバー(波及)して株高に拍車をかける構図になっている。
■「FRBについていけ」
11月25日のニューヨーク債券市場で米長期金利の指標である10年物国債利回りは前日と同じ0.88%で終えた。FRBの大規模な緩和が意識され「長期金利が1%を上回る状況は想定できない」(米国債トレーダー)との声が広がる。
債券相場はボラティリティー(変動率)の低下も鮮明だ。投資家が想定する将来の債券相場の変動率を示す「MOVE指数」は30%台後半と過去最低の水準にある。大統領選前は一時的に大きく上昇したが、長続きしなかった。米国債を月800億ドル購入するFRBによる「債券市場の官製化」が効いている。
FRBの継続的な買い入れは「海外の投資家からの強い需要にもつながっている」(BMOキャピタル・マーケッツのイアン・リンジェン氏)という。「FRBに逆らうな」という昔からある相場格言は、今や「FRBについていけ」との論調に変容しつつある。
米国の財政赤字拡大への懸念が和らいでいるのも金利安定をもたらしている。複数の米メディアは、民主党が追加の景気刺激策について「規模を縮小して年内に共和党との合意を目指す方針に変えつつある」と報じている。2兆ドル以上の財政規模を求めていた民主党に対し、共和党の主張は5000億ドル。共和党が提案する規模で合意すれば、FRBの緊急支援策の年内打ち切りで生まれる財政余地である4550億ドルで多くをまかなえることになる。
■「低金利が株高に拍車をかけている」
「低金利が株高に拍車をかけている」(エバコアISIのデニス・デバッシャー氏)とされ、25日の米株式市場ではハイテク株比率が高いナスダック総合株価指数が2カ月半ぶりに過去最高値を更新した。
米S&P500種株価指数の益回り(予想ベース)から長期金利の指標である米10年物国債の利回りを差し引いた「イールド・スプレッド」は直近で3.6%となっている。トランプ政権が発足した17年1月以降の平均(3.5%)とほぼ同水準だ。この間、長期金利は2.5%から0.8%に低下(債券価格は上昇)する一方、益利回りの逆数であるPER(株価収益率)は17倍から22倍に上昇した。低金利という重しが、債券価格との比較で株価の割高感を和らげる。
景気回復によるインフレ率の上昇が金融引き締めを促して株価を押し下げるという「20世紀型の株価調整」は通用しにくくなっている。失業率とインフレ率の関係が薄まっているためだ。10月は6.9%にある米失業率は、新型コロナの拡大前である今年2月は3.5%と50年ぶりの低水準だった。それでも物価上昇率はFRBが目標とする2%を下回っていた。金利の低位安定が長期化し、株高に拍車がかかるとの強気の見方が広がっている。