第5部 50歳からの安心運用術 ① シニアの運用デビュー、ここに注意
50代は資産運用を真剣に考え始める時期だ。定年退職が遠い将来のことではなくなり老後資金が気になりだすし、教育費や住宅ローンの支払いが終盤にさしかかり、ようやく運用におカネを回せる人も増えてくる。そこで今回からは「50代から始める資産運用」をテーマに連載していこう。できるだけ不安や心配なしでおカネを増やすにはどうしたらいいか。初回はシニアが運用デビューする際の5つの注意点をまとめてみた。
■ハードル高くても他に選択肢ない
冒頭から前向きな気持ちを挫くようで申し訳ないが、シニア世代の資産運用は若い世代に比べて難易度が高い。20代や30代なら資産を増やすために積極的にリスクを取っても問題ないが、シニア世代は事情が違う。運用期間が相対的に短く、一度大きな損失を負うと挽回の機会が限られるため、運用は資産形成層より保守的にならざるを得ない。できるだけリスクを抑えつつ、しっかり資産を増やすのは容易なことではない。
金融資産がたっぷりある人は別として、だからといって運用をしないでおカネを預貯金にしておくだけ、というのも考えものだ。現在50歳の人の平均余命は男性が32.9年、女性が38.5年。長い老後を前提にすると、本格的な年金生活に入る前に資産は少しでも増やしておきたいし、資産寿命も延ばしたい。そのためには、やはり運用に取り組む以外に選択肢はない。
50歳から始める運用で求められるのは、大負けを絶対しないための慎重さと、少しずつでも資産を増やしていく堅実さだ。それを実現するにはどんな点に注意しながら取り組めばいいだろう。運用デビューするシニアが陥りがちな失敗を回避するための、5つのポイントを考えてみた。
■リターンよりリスクを重視
ポイント① 高望みをしない 運用で大損を被るパターンでありがちなのが、大きなもうけを狙って過大なリスクを負ってしまうことだ。足元で株式相場が勢いよく上昇していたとしても、株式ファンドに資金の全額をつぎ込むのは危険だ。株式は様々な資産の中で最も大きなリターンをもたらしてきたが、その分だけリスクは大きく、最悪の場合は1年で半分ぐらいに値下がりする。
大負けしてはいけないシニア層がまず心がけるべきなのは、高望みをして過大なリスクを負わないことだ。資産運用を始めるとき、多くの人は「どれくらいの利益を上げられそうか」と皮算用をするが、最初にやるべきなのは「一時的にどれくらいの損失が出ても耐えられるか」を考えることだ。どの資産にどの程度の比率で投資するか、ポートフォリオ(資産の構成)はリスク許容度に応じて決めるのが原則。結果として期待リターンが下がったとしても、それは甘んじて受け入れなければならない。
ちなみにリスクを抑制する方法は、大まかにいって①投資対象を債券などの低リスク資産に限定する②株式など高リスク資産への投資比率を低くする③本格的に資産を分散したポートフォリオをつくる――の3つがある。しかし①では資産は増えないし、③はこれから運用デビューする人にとっては少々面倒で、現実的なのは株式の組み入れ比率を調整する方法になる。具体的なポートフォリオづくりは稿を改めて考えたい。
ポイント② 目標に縛られない 運用を始めるに当たっては、どれくらいの期間、どれくらいの資金を運用に回すかなど、大まかな運用計画は立てておいた方がいい。その中には何年でおカネをどれぐらいに増やすかという目標も含まれるかもしれないが、その目標には縛られるべきではない。なぜなら目標を何が何でも達成しようとすると、高いリターンを狙って高リスクの投資信託を買ってしまったり、運用に回す資金を増やすため日々の生活にしわ寄せが生じたりしてしまうからだ。
例えば10年間、毎月5万円ずつ積み立て投資をするケースを考えてみよう。期待リターンを年5%に設定すると、10年後に積み立て元本の600万円は775万円になる計算だ。ところが5年経過した段階で元本の300万円が250万円に減ってしまっていたらどうするか。それでも「10年後に775万円」という当初の計画を実現しようとしたら、6年目からは期待リターンを9.5%まで引き上げるか、毎月の積立金額を6万7000円に増やすしかない。
生活にゆとりができて運用に回せるおカネが増えているなら積立額を増やすのは問題ないが、期待リターンを2倍近くに上げるのは考え物だ。その分、リスクの高い運用に切り替えなければならず、運が悪ければ傷口が広がってしまう。積み立て期間の前半は市場環境に恵まれなかったとしても、ここは後半の回復に期待し、投信の乗り換えなどは見送った方がいい。
■軌道修正を可能にするには
ポイント③ 資金投入はゆっくり 初めての資産運用で焦りは禁物だ。資産運用はやってみて初めて気が付くこと、知ることが多く、経験値を高めながら徐々に運用資金を増やした方がいい。たとえ退職金などのまとまったお金が入ったとしても、それを一度に投入すべきではない。シニア世代になって毎年の収入が減っていくような場合、ポートフォリオづくりや商品選択で失敗しても、新規資金を投入するという修正方法は使いにくいからだ。
初心者にお勧めしたいのは、積み立て投資の活用だ。例えば300万円が手元にあってそれを運用に回す場合、目当ての投信を数十万円ずつ毎月の積み立てで購入し、1~2年かけてポートフォリオを完成させるという方法だ。あらかじめ決めた日に機械的に投信を購入していくので、投資タイミングに悩まなくて済むし、初期の段階なら投信選びに失敗したと思ったときにも切り替えやすい。
ポイント④ 待機資金を持つ 運用に回せるおカネのうち、できれば2割程度はいつでも使える待機資金として保有しておきたい。使い道は2つあって、ひとつは投信選びや資産構成で失敗してしまったときのためだ。ポートフォリオの投信を入れ替えたり、追加購入で資産の組み入れ比率を変えたりするにはおカネが必要になる。
もうひとつの用途は、相場が大きく下がったときに投信を追加購入するためだ。春先のコロナ・ショックのような安値で投信を仕込むチャンスが巡ってきても、資金がなければ指をくわえてみているしかない。いつ来るかわからない急落相場に備えて資金を寝かせておくのはもったいないような気もするが、運用が少々不調なときでも、いざという時に使える資金があれば心理的な余裕も生まれる。
ポイント⑤ ファンド選びは実力本位で 運用の初心者によくあるのは、金融機関のホームページに載っている売れ筋のファンドや、足元で基準価額が大きく上昇しているファンドに飛びついてしまうケースだ。たくさん売れているのが実力ファンドとは限らないし、直近の運用成績がよくてもそれはたまたまかもしれない。
購入するファンドは、中長期の実績を確認し、月次レポートや目論見書で運用方針やファンドの性格などを理解したうえで決めてほしい。納得したうえで購入すれば、あとで後悔することも少なくなる。どうしても選ぶのに迷ってしまったら、オーソドックスなインデックス型を買っておけば無難だ。
マーケットは気まぐれで、皆が望んだようには動いてくれないものだ。当初考えた計画通りに資産が増えていく方がまれだと考えておいた方がいい。シニアの運用は慎重に堅実に、そして心に余裕を持って取り組みたい。(QUICK Money World=北澤千秋)