【日経QUICKニュース(NQN) 大貫瞬治】家計が預貯金を増やしている。新型コロナウイルス感染症の影響で収入増が見込みにくくなった。外出自粛により本来なら旅行などのサービス消費に向かうはずの資金も貯蓄に向かっている。コロナ禍で今年の冬の賞与は前年比1割減との試算もあるなかで、生活を守ろうと家計は防衛に動いている。
■「預貯金」が増加傾向
総務省が12月8日発表した10月の家計調査で、2人以上の世帯のうち勤労者世帯の「預貯金」は名目で前年同月比2.6%増だった。預貯金は5月以降、増加傾向にあり、10万円の特別定額給付金の影響で6月には名目で前年同月比17.6%増と、比較可能な2001年1月以降で最高の伸びを記録した。
10月の消費支出は、1世帯(2人以上)あたり実質で前年同月比1.9%増えた。2019年10月は消費税率の引き上げで消費が停滞したため、比較対象となる「発射台」が低かった。可処分所得に占める消費支出の比率を示す消費性向を勤労者世帯の平均でみると、10月は季節調整値で66.8%と、9月の67.9%から低下している。
■賞与、ベアは難しい
市場では貯蓄の増加傾向について「今後、給与が上昇する見込みが薄いなかでは当たり前だ」(帝国データバンクの旭海太郎氏)と理解を示す声が多い。コロナ禍による企業業績の悪化で「人手不足の企業は急減しており、企業は賃金引き上げの動機を失った」(旭氏)。
帝国データバンクがまとめた10月の人手不足に関する調査では「正社員不足」と回答した企業が全体の34.0%と、10月としては5年ぶりに3割台に低下した。21年の春季労使交渉(春闘)でも賃金を一律に引き上げるベースアップ(ベア)は難しいと旭氏は予想する。
冬の賞与も減少しそうだ。第一生命経済研究所の新家義貴主席エコノミストは、冬の賞与は前年比8.0%減、賞与の支給が無かった労働者も含めると11.5%減になると試算する。
■個人消費は盛り上がりそうにない
「消費したくてもできない人もいる。節約指向だけではない」と話すのはSMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストだ。同氏は、コロナ禍による給与への影響は業種により差があると分析。「旅行などサービス消費に振り向ける資金が社会経済活動の自粛で余り、結果的に貯蓄に回った」と解説する。
宮前氏は、余剰資金の一部が「巣ごもり・買い替え需要もあいまって、一部の家電に向かっている可能性がある」とも指摘した。10月のテレビ出荷台数は前年同月比28%増になったとして「10月の水準は2019年平均の水準を上回った状態だ」と分析する。
それでも、このところの新型コロナの感染状況を踏まえると「貯蓄を取り崩してまで消費を増やす可能性は低い」(第一生命経済研究所の新家氏)。年末にかけての個人消費は、盛り上がりそうにない。