【QUICK Market Eyes 根岸てるみ】年末恒例のIPOラッシュが12月15日から始まる。月末までに26銘柄が上場予定で、月間としては今年最多になる。大型株の上昇に一服感が漂うなか、年末にかけて新興株が賑わう動きになるかもしれない。
■SaaSやAI関連など中心にIPOラッシュ
12月のIPO銘柄をみると、クラウド経由でソフトウエアを提供するSaaS(サース)型サービスやAI(人工知能)、プラットフォームなどIT関連の事業を手掛ける企業が目立つ。需給的には18日に東証マザーズに上場予定のココペリ(4167)の公募株数が27万6000株と少なく、業績も21年3月期に最終黒字に転換する見込みで、人気化しそうだ。
経済正常化を先取りするならば、インバウンド(訪日外国人)などに対して多言語で顧客サポートと営業支援するインバウンドテック(7031)が面白そうだ。インバウンドの大幅減の痛手はあったが、新型コロナの相談窓口といった新たな需要の取り込みに成功。21年3月期の単独税引き利益は、前期比11%増益が見込まれている。
時価総額ベースでは今年のIPOの雪国まいたけ(約876億円)に次ぐ規模といわれる電子楽器のローランド(7944)が16日に東証1部に新規上場する。上場時の時価総額は約847億円だ。
同社は2014年10月にMBO(経営陣が参加する買収)で東証上場を廃止。今回、経営再建を手掛けた筆頭株主の米投資ファンド、タイヨウ・パシフィック・パートナーズが保有株を売り出す。
公開価格は1株3100円で、仮条件(2810~3710円)の平均価格を下回る水準だったため、人気化しない可能性がある。今回の上場は投資ファンドのエグジットといえるほか、売り出しのみの場合は株式市場での人気があまり高まらないケースが多いことも初値形成に影響するかもしれない。
■個人投資家は4週連続で買い越し
個人投資家の投資意欲は旺盛だ。12月第1週(11月30日~12月4日)の新興企業向け株式市場で、個人投資家は4週連続で買い越した。買越額は319億円。ジャスダック市場のみの個人の買越額は122億円と、6年4カ月ぶりの高水準となった。
過去1年以内に上場した銘柄の値動きを指数にしたQUICK IPOインデックス(加重平均)は、年初から先週末の11日までに73%上昇。東証マザーズ指数の32%を大幅にアウトパフォームした。
IPO銘柄に投資するため、個人投資家が保有銘柄を売却して投資資金の捻出に動けば東証マザーズやジャスダックの相場が弱含むとの見方もある。しかし、金融緩和によるカネ余りで新興株もIPO銘柄も強含むという展開はあるかもしれない。
<金融用語>
QUICK IPOインデックスとは
QUICK IPOインデックスとは、新規株式公開(IPO)銘柄の上場後1年間の平均的な値動きを表す指数で、QUICKが算出、公表している。全対象銘柄の前営業日からの平均騰落率を前営業日の指数値に累積して計算。国内市場に新規上場した銘柄すべてを対象とし、新規上場の翌営業日から計算に組み入れる。対象銘柄の騰落率を単純平均したものと、時価総額で加重平均したものの2種類が算出されている。