【日経QUICKニュース(NQN) 中元大輔】スペインとポルトガルの長期金利が、12月に入り初めてマイナスに突入した。政府財政への不安を背景に、両国の金利水準は従来高めだったが、新型コロウイルス感染拡大に伴う欧州中央銀行(ECB)の金融緩和措置の効果が波及して、両国国債の需給も引き締められている。
■高金利国の面影なし
QUICKによると、長期金利の指標となる10年物国債利回りはポルトガルで8日にマイナス0.007%に低下(債券価格は上昇)し、その後もマイナス圏で推移している。スペインは11日にマイナス0.002%を付けた後、ゼロ%を挟んで推移している。金融市場では、いよいよ両国も「ネガティブ・イールド・クラブ」入りだと話題だ。リーマン・ショックなどに起因して2010年前後の欧州債務危機時には両国債の利回りは急騰した。「高金利国債」だった両国債を巡る様相はこのところ一変している。
※欧州主要国との利回り差が徐々に狭まってきたスペインとポルトガルの長期金利
利回りの低下には、やはりECBの金融緩和策の強化がある。ECBは10日、新型コロナウイルスの感染拡大による景気減速への対応策として域内国債など買い入れる「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」の枠を5000億ユーロ増額し、1兆8500億ユーロ(約230兆円)にすると発表した。購入期限は9カ月延長の22年3月末とした。
ECBは、11月末時点で同プログラムを通じて6500億ユーロ分の資産を保有しており、そのうちスペイン・ポルトガルの資産は公債などで14%を占める。野村証券の岸田英樹氏は、両国債の利回りは10日の発表にあわせて下がってきたと指摘する。
■日本の投資家も買い意欲
周辺国の金利も低下しており、呼び水になったとの見方もある。SMBC日興証券の野地慎氏は、新型コロナの感染拡大で投資家が運用リスクを回避するため、相対的に安全な資産とされるドイツやフランスの国債が買われ、「利回りを求める投資家は(スペインやポルトガル国債に)資金を入れたのでは」と分析している。
スペイン債については、日本の投資家の買い意欲も強かった。財務省発表の対外証券投資の最新データによると、国内投資家は10月にスペインの中長期債を約2000億円買い越し、新型コロナが広がりを見せた3月以降で最も多かった。11月は国内投資家は海外の中長期債を約5兆円買い越しており、市場では「スペイン債も含まれる」(国内証券)とみられている。
もっとも、両国経済は観光などサービス業への依存度が高く、新型コロナウイルスの感染拡大のマイナス影響は大きい。欧州連合(EU)の欧州委員会による20年の国内総生産(GDP)成長率予測では、スペインが前年比12.4%減、ポルトガルが同9.3%減と、加盟国全体(7.4%減)に対して下げ幅が大きい。ポルトガルでは新型コロナの非常事態宣言が延長されており、スペインも州によって行動制限が敷かれている。
3月のコロナショック発生時には、財政出動が意識されて両国の長期金利は上昇した。現在のマイナス利回りの相場はあくまでEUの復興基金成立やECBの金融緩和が支えとなっている。両国の金利動向を読む上では、政策変更のリスクや新型コロナの感染状況など外部環境をこれまで以上に注視する必要がある。