【NQNニューヨーク 川内資子】ドル安が止まらない。ドルの総合的な強さを示すインターコンチネンタル取引所(ICE)算出のドル指数は12月17日、89台と節目の90を下回り2018年4月以来の低水準を付けた。追加の米経済対策への期待から投資家がリスクを取る姿勢を強めている。緩和的な米金融政策の長期化観測もドルの先安観を促すが、下落が急ピッチで進んできただけに目先の反転を見込む声も出始めた。
■緩和長期化、改めて意識
ドル安は対欧州通貨での下落が主導している。英国と欧州連合(EU)の通商交渉の合意期待による英ポンド買いが勢いづき、17日にドルは対ポンドで18年5月以来の安値を付けた。追加の米経済対策や、新型コロナウイルスのワクチン接種開始による経済の正常化への期待もドル売りを促し、対ユーロでも18年4月以来の安値を付けた。前日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けて、米連邦準備理事会(FRB)による量的緩和策の長期化観測が改めて強まったのもドル売りの安心感を誘った。
■相当な時間がかかりそう
米経済指標も米量的緩和の長期化観測を裏付ける。17日発表の週間の米新規失業保険申請件数は88万5000件と市場予想に反して前週比で2万3000件増え、9月上旬以来の高水準となった。新型コロナの感染拡大で行動規制を強化する州や都市が増えたためだ。対象週は12月の雇用統計の集計期間と重なる。雇用統計で「非農業部門の雇用者数が前月比で減少に転じる可能性が高まった」(ウェルズ・ファーゴ証券)との指摘が目立った。仮にそうなれば4月以来8カ月ぶりの減少となる。
パンセオン・マクロエコノミクスのイアン・シェパードソン氏は新規失業保険申請件数について「内容は見た目より悪い」と指摘する。該当週は季節的に減少する傾向が強いにもかかわらず、大きく増えており雇用環境が急速に悪化している可能性が高い。雇用が鈍りやすい年末から年初にかけてさらに悪化しそうだという。FRBは前日公表のFOMC声明で国債など資産購入について「雇用の最大化と物価の安定という目標に向かってかなりの進展があるまで」との指針を新たに加えた。コロナワクチン接種で経済はいずれ正常化しても、雇用が最大化に向かって「かなり進展する」には相当な時間がかかりそうだ。
■近くドルは買い直される?
21年もドル安基調は続くとの見方は多いが、足元のドルの下落ペースや程度はやや行き過ぎとの声も増えつつある。TD証券のネッド・ラムペルティン氏は「年末に向けて取引が徐々に細るなか、既存のトレンド追いの動きだけでドル安が進んだ」とみる。各国・地域の成長見通しや、FRBと欧州中央銀行(ECB)のバランスシートの拡大ペースの差などを考慮すると現状のドルの水準は低すぎるとし、近くドルは買い直されると予想する。
17日のニューヨーク市場で円相場は一時1ドル=102円88銭近辺と3月以来の円高・ドル安水準を付けた。米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉報告によると、8日時点の投機筋の円の買越幅は3週連続で拡大し、4万8166枚と16年10月以来の高水準となった。今年3月に買い越しに転じて以来2万枚前後で推移してきたが、ここ数週間で急速に増えた。中期的にドルは下落基調にあるとしても、市場関係者の持ち高の偏りは大きくなっている。取引が細る年末にかけて、きっかけ次第でドルの買い直しが膨らむ可能性は想定しておいた方がよさそうだ。