欧米で暮らすとクリスマスが1年で最も特別な日であることを実感する。商店街や住宅街が華やかに飾り付けられる一方で、クリスマス当日は街全体が静まりかえり独特な雰囲気に包まれる。今年は非常事態下でクリスマスを迎える。
AAA(米自動車協会)は、米国内でクリスマス期間中に845万人が旅行すると予想する。前年比30%近く減少するとの見通しだが、CBSニュースは新型コロナウイルスの感染者が連日最多を更新する中で、非常に多いと伝えた。米疾病対策センター(CDC)が旅行自粛を勧告したものの、先月末の感謝祭同様に事実上無視されているのが実情だ。
米ジョンズ・ホプキンス大学によると、20日時点の米国内の感染者は1780万人。感染増が特に目立つのはカリフォルニア州だ。ロサンゼルス・タイムズ紙のまとめでは、過去7日間の州内の1日あたり新規感染者数は4万1504人で2週間前と比べ118.5%増。1日あたり死者は232人で116.7%増加した。
ロサンゼルスとサンディエゴを含む南カリフォルニア地区の集中治療室の空きは17日からゼロが続く。重症者の生存する可能性を選別する作業や屋外治療スペースを急遽準備するなどで危機を乗り切ろうとしているとロサンゼルス・タイムズ紙は報じている。子供向け病院に勤務する知人の医師は「毎日が地獄」だと話す。主要ネットワークTVは医療崩壊を恐れるロサンゼルスの医療従事者のインタビューを伝えた。
全米が新型コロナの脅威に脅かされる中、米株式市場では楽観的な見方が多い。主要金融機関は2021年の相場予想を発表した。いずれも強気だ。
米バロンズ誌は最新号の巻頭記事で「株式相場が来年さらに10%上昇すると専門家は予想」と伝えた。金融機関のストラテジストや資産運用会社の投資担当責任者の10人を対象にした調査で、現在3700近辺のS&P500種株価指数が4040まで上昇するとの見通しを示した。予想レンジは3800から4400と幅広かった。
米CNBCによるウォール街のストラテジストを対象にした調査でも類似した結果が出た。S&P500が来年末までに現在より約9.5%高い水準まで上昇するとの予想が中央値だ。コロナ感染者と入院患者の増加で新年はじめは荒れる可能性があるものの、株式相場の上昇が第2四半期(4~6月)から始まるとの見方が優勢だった。
ファイザーとビオンテックが共同開発したワクチンに続き、米食品医薬品局(FDA)はモデルナのワクチンの緊急使用を承認した。幅広い接種は来年春以降になる公算だ。市場関係者はワクチン普及で景気が力強く回復すると期待し、相場に織り込み始めた。一方、全米の医療専門家は危機が深刻化することを恐れている。感謝祭後に全米で感染が急拡大したことを、クリスマス後に繰り返すのではないか。米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)は来年4月1日までにコロナ感染による死者数が56万1669人まで増加すると予測する。株式市場と現実のギャップは、あまりにも大きい。
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Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信