【QUICK Market Eyes 大野弘貴】2020年はESGの年と言えるかもしれない。あらゆる調査を見ても、ESGへの認知と期待が急速に広まっていることが確認できる。ESG投資の拡大と同時に、パフォーマンスにもこれまで見られなかったような傾向が現れ始めている。
■日米でESGへの資金流入増加
QUICK Market Eyesが市場参加者を対象に取りまとめた2021年の相場展望によると、一番強気の金融資産にESG(環境・社会・ガバナンス)を挙げた回答者は13.6%だった。日本株(31.8%)、米株(27.3%)に次ぐ比率となった。昨年同時期に同様のアンケートを取ったところ、20年で一番強気の資産にESGを挙げた回答者はわずか1名。この1年間でESGに対する認知と先行きへの期待が急速に広まったことになる。
アセットマネジメントOneが7月20日に設定した「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド」は当初設定で約3830億円を集めた。当初設定額としては2000年2月に約7900億円を集めた「ノムラ日本株戦略ファンド」に次ぐ2番目となっている。その後も残高は増加し続け、足もとの純資産総額は約8500億円にも上った。
ESGへの資金流入は日本だけではない。米市場に上場する「iシェアーズ ESG Aware MSCI USA ETF(ESGU)」の受益権口数は19年12月末の2050万口から12月には1億5300万口超まで急増した。
今年1年間を通してみても、3月の株式市場急落局面でも同ETFの受益権口数増加基調変わらなかった。
■ESGを考慮する投資家が倍増
BofAグローバル・リサーチのサビタ・スブラマニアンESGリサーチ責任者は16日付リポートで、「ESG指数へのトラックを目指したファンドについては、AUM(運用残高)が倍増しており、リスク・オフにもかかわらず資金流入が加速している」と振り返った上で、「20年はESG投資にとって重要な年であり、21年もこの勢いが続く」と予想した。
BofAの調査によると、投資判断にESGを考慮する機関投資家はここ数年で倍増しているほか、個人投資家の5人に4人は投資プロセスにおいて現在ESGを考慮しているまたは考慮したいと考えているという。
FTSEが公表した調査によると、サステナブル・ESG投資を考慮したアセットオーナーの割合は20年に72%と19年の58%から大きく上昇した。特に北米においては19年の39%から63%と24%ポイントの大幅増となった。
ある外資系証券のトレーダーはESGについて「投資テーマは流行り廃りがあるものの、これに関しては息の長いテーマになっている」との印象を示した。
■ESG格付けが高格付けほどパフォーマンス良い?
ESG投資の広がりはパフォーマンスにも現れ始めている。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がパッシブ運用を目指し採用したESG指数、「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」はこれまでTOPIXと似たような値動きとなっていたが、3月の相場急落以降は明確にアウトパフォームするようになってきた。
格付け別で見ると、より顕著になる。MSCIは企業が環境、社会、ガバナンスリスクをどの程度管理できているかを分析、評価し、それぞれの企業に最上位ランクであるAAAから最下位ランクのCCCまで7段階の格付けを付している。
年始以降、MSCIのESG格付け別で見たパフォーマンスは、高格付けほど良い。
MSCIのESG格付けがAAAの銘柄にはソニー(6758)やイビデン(4062)といった低金利で恩恵を受けたグロース株のほか、NTT(9432)によるTOB(株式公開買付け)で25日に上場廃止となるNTTドコモ(9437)も含まれている。外部環境が追い風になった側面もあり、必ずしもESGへの取り組みが株価パフォーマンスに結びついたとは言い切れない。
あるファンドマネージャーは「ESG指数に連動するETFや投資信託への残高が拡大する中、これからESG面での改善が見込め、ESGスコアの向上も図れる企業への投資が有効」と指摘する。
新型コロナウイルスの感染拡大で市場環境が大きく変動する中においても、一貫して運用残高が拡大したESG。息の長いテーマになる可能性がある分、綺麗ごとだけでなく、水面下ではよりよいパフォーマンスを求め様々な思惑も交錯している。
<金融用語>
ESG投資とは
ESG投資とは、SRI(社会的責任投資)とCSR(企業の社会的責任)を発展的に統合した考え方。頭文字はE(環境、Environment)、S(社会、Social)、G(企業統治・ガバナンス、Governance)をそれぞれ意味する。世界が貧富の格差問題、ボーダーレス化する地球環境問題や企業経営のグローバル化に伴う様々な課題に直面する中で、企業への投資は、短期的ではなく長期的な収益向上の観点とともに、持続可能となるような国際社会づくりに貢献するESGの視点を重視して行うのが望ましいとの見解を国連が提唱した。その結果、ESGの視点で投資を行う金融機関が欧米を中心に広がっている。