【NQN香港=林千夏、桶本典子】中国の金融当局が26日、アリババ集団傘下の金融会社アント・グループを聴取した。「企業統治が不健全」などとして、5項目で改善を要求。決済という本業への回帰や資本の充足、融資業務の監督強化を念頭に金融持ち株会社設立などを指示した。当局の規制強化を嫌気し、28日のアリババ株は香港市場で一時207.2香港ドルまで売られた。終値は前営業日比7.97%安の210.0香港ドルだった。アントはどうなるのか。市場関係者に聞いた。
■「規制の重点はネット金融、アリババ株の一段の下押しはない」
UOBケイヒアンの梁偉源エグゼクティブディレクター
中国人民銀行(中央銀行)などが26日にアントに実施した聴取の内容からみれば、中国当局が重視したのはネット金融サービスに対する規制だ。当局が「本業の決済事業に戻るように」と要求したということは、アントの売上高の6割超を占めるフィンテック事業で、利益率の高い金融サービスをこれから展開しにくくなるということを意味する。
延期した新規株式公開(IPO)を再び目指せるかどうかは、アントがどこまで当局の意思に沿って改革するか次第だ。とはいえ上場するとしても、市場が同社を一般的な決済サービス企業とみなせば、同社の企業価値は現行よりも低くなるはずだ。
独占禁止法を所管する市場監督管理総局もアリババ集団の独占的取引行為について調査を始めているが、独占行為への取り締まりはあくまでも(ネット金融規制の)「二の次」だ。今回の一連の聴取の影響は現在のアリババの株価にほぼ織り込まれているとみられ、アリババ株が215香港ドル近辺から大きく下押すことはないのではなかろうか。押し目買いが入り短期的な上値は240香港ドルがメドとみているが、さらに上値を追えるかはアリババとアントの今後の対応を見極める必要がある。
28日はネットサービスの騰訊控股(テンセント)や出前アプリの美団なども大幅に下げている。だが当局の規制の対象はあくまでも(監督の目が届いていなかった)金融サービスで、これらの企業への影響は限られるだろう。
■「アント、当局が求める手続き経て上場目指す道筋も」
豊盛金融集団・資産管理ディレクターの黄国英氏
人民銀によるアントへの要求内容を見ると、本来の決済事業以外の野放図な事業拡張を事実上、封じた形だ。決済サービスの支付宝(アリペイ)は問題なく継続できるが、MMF(マネー・マーケット・ファンド)の余額宝や、「花唄」「借唄」などの小口の消費者金融事業を展開するには正規の免許取得などが必要となる。既存の銀行が管轄する事業に手を出すのなら、それなりの手続きが必要だと指摘したと言える。
アリババとしてはアントの一部事業を停止するか、当局の求める手続きを経て事業維持を目指すかになる。各事業で調整するとしても、大きな方向性としては手続きをして事業を存続させることを選ぶのではないか。ただ免許を取得するなどして当局の要求に応えるには、長い時間を要するだろう。
一方、これでアントのIPOに道筋が見えてきたとみている。時間はかかるかもしれないが、アントは最終的には上場を望むだろう。事業や(国の出資などで)資本構成が現行と変わったとしても、それはその時点で投資家が出資の有無を判断すればいいことだ。