【NQNニューヨーク 古江敦子】民主党のバイデン新政権の発足が迫り、1月7日の米市場では大型の財政出動を織り込む株買い・債券売りが広がった。新政権の公約を巡り、巨額の財政出動に伴い2021年後半にも米景気の回復が進展するとの見方は根強い。環境対策を前面に押し出す新政権は原油上昇を後押しするとの見方も浮上している。
■「21年のGDP伸び率は4.6%から6%台に」
バンク・オブ・アメリカのミシェル・メイヤー氏は7日付のリポートでバイデン新政権を巡って「2月にも1兆ドル規模の追加経済対策が決まりそうだ」と予想する。民主党が大統領と米議会上下両院の多数派を実質的に握ったことで、前月可決された9000億ドル規模の追加対策が2兆ドル規模に拡大されるとの見立てだ。今年前半は新型コロナウイルスの感染再拡大が景気回復に水を差すだろうが、追加経済対策により「21年の実質国内総生産(GDP)伸び率は4.6%から軽く6%台に切り上がる」とみる。
上院では多くの法案は議事妨害を阻止するために60票の賛成が必要だ。だが、一部の税制や歳出関連の法案は「リコンシリエーション」と呼ばれる予算調整措置の活用により、上院でも単純過半数で可決できる。パンセオン・マクロエコノミクスのイアン・シェファードソン氏は「民主党はこの措置を使い追加対策やインフラ整備の法案を可決させるだろうが、増税や規制強化については野党共和党との調整が必要になる」と指摘する。経済対策に比べて増税や規制強化のハードルは高いと受け止められ、投資家のリスク選好が強くなっている。
シェファードソン氏は「仮に増税で推計される2兆8000億ドルの歳入があっても、バイデン氏の公約実現には今後10年で5兆ドルを要すとみられ、歳出増を補いきれない」といい、いくつかの公約は制限されそうだ。UBSのマーク・エーフル氏は「2兆ドル規模の環境対策は排ガス規制など部分的にしか施行されない」とみる。
■バイデン政権下で原油価格の上昇?
脱炭素を掲げるバイデン新政権の誕生は一見、原油相場に向かい風になると受け止められがちだが、違った見方もある。プライス・フューチャーズ・グループのフィル・フリン氏は「バイデン政権はパイプラインや石油施設の環境審査を強化し、米国の石油・ガス生産の25%を負う連邦政府の所有地の石油企業に対するリース契約を厳格化する可能性が高い」と指摘。そのうえで「結果的に米国のエネルギー供給が制限され、原油価格の押し上げ要因となる」と話す。
昨年4月に史上初のマイナス価格を付けた米指標油種のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は、7日に期近2月物が1バレル51ドル台と米国で新型コロナ感染が深刻化する前の昨年2月下旬の水準を回復した。ワクチン普及による米景気回復で需要が持ち直すとの期待に加え、バイデン政権下での供給減の観測も織り込み始めている。
石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国から成る「OPECプラス」が5日に協調減産の規模の維持を決めたこともあり、「年末時点のWTIは62ドルを見込む」(ゴールドマン・サックス)と強気な見方が増えてきた。目先の景気回復ペースはやや停滞しそうだが、バイデン新政権の公約が速やかに進めば、原油相場の上昇基調は強まりそうだ。
<金融用語>
WTIとは
WTIとは、West Texas Intermediateの略称。米国の代表的な原油。テキサス州西部を中心とした地域で産出され、硫黄分が少なくガソリンを多く抽出できる高品質な原油を指す。 ニューヨークマーカンタイル取引所において、その先物取引が行われており、原油価格の代表的な指標となっている。この先物取引を指すこともある。