【日経QUICKニュース(NQN) 山田周吾】欧州通貨ユーロが足元で軟調に推移している。昨年はドル安を受けたユーロ買いが進行し、対ドルのユーロ相場は年初から約9%上昇した。今年に入り、その上昇基調に変化がみえ始めた。きっかけは米政権・議会での「ブルーウエーブ」の実現だ。追加経済対策への期待からドルが上昇、その裏返しでユーロは売られた。市場関係者は、ドルの動向だけでなく、欧州連合(EU)で強いリーダーシップを持つメルケル独首相の退任や、欧州でのワクチン接種の遅れなどの悪材料にも視線を向けている。
■豊富な悪材料
13日の東京外国為替市場で、ユーロの対ドル相場は1ユーロ=1.22ドル近辺で推移し、前日の1.21ドル台から上昇した。6日に付けた2018年4月以来の高値である1ユーロ=1.2348ドルから米政策期待を背景に急落した後だけに、米長期金利の上昇一服でドルが売られ、ユーロは買い直されたようだ。もっとも米金利の上昇余地は残されているとの声も聞かれ、ユーロには下落リスクがくすぶる。
ドルの持ち直しに加えて、ユーロを取り巻く悪材料は多い。長年EUで中心的役割を果たしたメルケル独首相が21年9月に政界を引退する。16日に独与党のキリスト教民主同盟(CDU)の党首選挙が予定されるが、市場からは「誰が党首となっても、EU内で強いリーダーシップを持つ人物がいなくなることに変わりない。今後、EU復興基金などを巡り各国で対立した際、それが長期化する懸念が出てきた」(野村証券の春井真也氏)とEU内での結束の緩みを指摘する声があった。
※ユーロの対ドル相場
■遅れるワクチン接種
各国で新型コロナウイルスのワクチン接種が広まるなか、米国や英国に対し、EU圏では接種が遅れている。英オックスフォード大学の研究者などがまとめた統計「Our World in Data」によると、100人あたりの接種率は米国が2.82%(12日時点)、英国が4.19%(11日時点)なのに対し、ドイツは0.82%(11日時点)、フランスは0.29%(12日時点)と後れを取っている。医薬品を審査するEUの当局によるワクチン承認が米国などに比べ遅れたことが響いているようだ。
ソニーフィナンシャルホールディングスの森本淳太郎氏は「ワクチン接種の遅れは欧州の景気停滞を意識させる材料で、ユーロ相場を下押しする」とし、欧州経済の中心であるドイツがロックダウン(都市封鎖)強化を長期化することもユーロの重荷になるとした。欧州圏での政情不安などを背景に18年以降、2年間下落が続いた「弱いユーロ」は昨年、ドル安で反転の兆しをみせていた。波乱の幕開けとなった今年は、ユーロ高の持続性が試されている。