【日経QUICKニュース(NQN) 山田周吾、船田枝里】2020年4~12月に国内債券市場で発行された普通社債(証券化商品を除く)は総額12兆9416億円となった。19年(12兆8443億円)を超え、QUICKのデータを遡れる1997年以降で過去最高を更新した。日銀が大規模な社債買い入れを続けていることなどから、コストを抑えて調達できるとみた企業の発行意欲が引き続き旺盛だった。NTT(9432)のグループ再編に絡んでNTTファイナンスが総額1兆円を調達するなど、大規模な社債発行も目立った。
■引受首位はみずほ証券
QUICKが証券会社別に主幹事の引受額(共同主幹事は等分)を集計したところ、みずほ証券が2兆9380億円と最多になった。九州電力(9508)の総額2000億円の3本立て公募ハイブリッド債(劣後債)で主幹事を務めた。ヒューリック(3003)や芙蓉総合リース(8424)で、環境関連の目標を達成できなかった場合に支払う利息が増えるタイプの社債でも主幹事となった。持続可能な開発目標に関連する事業に資金を充てる「SDGs債」の発行を積極的に支援している。
みずほ証は「大型案件を含め、発行体と投資家のニーズをしっかり聞き取ることに努めたことが引受額の積み上げにつながった」(デットシンジケーション部)と振り返る。同社の引受担当者は、投資家がある程度のリスクを取る傾向が強くなっていると分析したうえで、高めの利回りが得られる劣後債への需要にも対応したと話す。
■野村、2位に浮上
引受額2位は野村証券(2兆4102億円)。セブン&アイ・ホールディングス(3382)の総額3500億円の3本立て債や、総額2000億円のパナソニック(6752)の4本立て債などで主幹事を務め、19年4~12月の5位から順位を上げた。
新型コロナウイルスの感染再拡大が意識された20年下半期、コロナ禍の長期化を見据えて手元資金を厚くしたいというニーズは根強かった。日銀の買い入れ拡充で社債の上乗せ金利(スプレッド)がコロナ禍以前まで縮小。コロナ後に急騰した「金利」というハードルも低くなり、過去最高の発行額に積み上がった。
10~12月では大型起債も目立った。NTTファイナンスが12月に起債した4本立て債の発行総額は1兆円と、国内公募債が1度に実施する起債としては過去最大となった。同社債はみずほ証、野村など国内大手証券がそろって共同主幹事を務めたため、証券会社別の引受額ランキングの順位への影響は限られた。
■今年はかんぽ生命など注目
記録的なペースで発行が進んだ20年だったが、21年の社債市場はどうなるか。アセットマネジメントOneの加藤晴康氏は「20年末の大型案件では倍率が高く、一部の投資家は買い足りていない印象だ。21年1月以降も高い倍率の案件がみられるなど、投資家の需要は引き続き旺盛だ」と指摘。1月後半からは、かんぽ生命保険(7181)などの大型起債が予定されており、今後の発行ペースを見極めるポイントになるとみていた。
▽主幹事引受額
◎共同主幹事・等分ベース
順位 | 証券会社(億円) | 引受額(%) | シェア | 件数 |
1(1) | みずほ証 | 29380 | 22.7 | 388 |
2(5) | 野村 | 24102 | 18.6 | 341 |
3(3) | SMBC日興 | 24084 | 18.6 | 374 |
4(2) | 三菱UFJモルガン・スタンレー | 23170 | 17.9 | 322 |
5(4) | 大和 | 21340 | 16.5 | 309 |
6(6) | しんきん証 | 2300 | 1.8 | 38 |
7(9) | ゴールドマン・サックス | 1402 | 1.1 | 22 |
8(11) | BofA | 1241 | 1 | 18 |
9(8) | 東海東京 | 960 | 0.7 | 24 |
10(7) | SBI | 768 | 0.6 | 15 |
11(10) | 岡三 | 297 | 0.2 | 10 |
12(14) | シティグループ | 171 | 0.1 | 3 |
13(13) | 新生証 | 150 | 0.1 | 2 |
14(15) | あおぞら証 | 25 | 0 | 1 |
― | 主幹事なし | 20 | 0 | 2 |
◎事務主幹事ベース
順位 | 証券会社(億円) | 引受額(%) | シェア | 件数 |
1(1) | みずほ証 | 34085 | 26.3 | 144 |
2(5) | SMBC日興 | 29425 | 22.7 | 110 |
3(2) | 野村 | 26170 | 20.2 | 117 |
4(3) | 三菱UFJモルガン・スタンレー | 21335 | 16.5 | 86 |
5(4) | 大和 | 18381 | 14.2 | 85 |
― | 主幹事なし | 20 | 0 | 2 |
※カッコ内は2019年4~12月期。シェアは小数第2位を四捨五入。四捨五入の関係で0.0%になる場合がある。
※メリルリンチ日本証券は20年11月1日付で「BofA証券」に商号を変更。
▽企業別の発行額ランキング・上位10社
◎20年4~12月期
順位 | 企業名(証券コード) | 発行額(億円) |
1 | NTTファイナンス | 10400 |
2 | 東京電力パワーグリッド | 6700 |
3 | みずほFG(8411) | 5550 |
4 | アサヒ(2502) | 4100 |
5 | JR東日本(9020) | 4000 |
6 | セブン&アイ(3382) | 3500 |
7 | JR西日本(9021) | 3300 |
8 | 九州電(9508) | 2900 |
9 | 三菱UFJ(8306) | 2720 |
10 | ソフトバンク(9434) | 2200 |
<金融用語>
主幹事とは
主幹事とは、有価証券の募集や売り出し、新規公開の際、引受・販売等を行う幹事会社のうち、引受数量が多く、全体的な作業の運営やスケジュール管理など中心的役割を果たす会社のこと。新規公開(IPO)では、公開時の引受・販売に加え、公開までの各種事務手続きや審査、株価設定、株式上場後の資金調達の助言や指導なども行う。