【日経QUICKニュース(NQN) 山田周吾】外国為替市場でユーロの下落が続いている。年初に対ドルで1ユーロ=1.23ドル台と約2年9カ月ぶりの高値を付けたのをピークに、足元では節目の1.20ドル割れが視野に入る。混迷するイタリアの政局を解決する案として浮上した「ドラギ政権」の構想がユーロ安に歯止めを掛けるとの期待は高い。しかし、欧州債務危機の封じ込めで「マジック」と称されたドラギ氏の辣腕でもユーロ安は食い止められないとの声は多い。
■ユーロの弱さ目立つ
ユーロは2月3日に一時1.2004ドル近辺と、2020年12月1日以来およそ2カ月ぶりの安値をつけた。イタリアの首相候補にドラギ前欧州中央銀行(ECB)総裁が指名されたのをきっかけに買いが入った4日の東京市場でも、1.2045ドル近辺を付けた後は売りに押されて1.2013ドル近辺まで下げた。同じ欧州の通貨でもユーロの弱さは目立ち、英ポンドに対しては1ユーロ=0.88ポンド台前半と約9カ月ぶりの安値圏で推移している。
※米ドルと英ポンドの対ユーロレート
ユーロ売りを促す材料は多い。1月下旬には、オランダ中銀のクノット総裁が「ユーロ高を防ぐために必要なら、さらに利下げする余地もある」と述べたと伝わるなど、ECB理事会のメンバーは通貨高へのけん制を強めている。ユーロ圏は20年10~12月期の実質域内総生産(GDP)が2四半期ぶりにマイナスとなるなど、プラス成長を続けている米国とは景気動向の違いも目立つ。
■政情不安とワクチン普及遅れ
ドラギ政権が誕生しても与党内での不協和音は残りそうだ。そもそもコンテ氏が首相を辞任したのは少数政党「イタリア・ビバ」が連立与党を離脱し、上院が過半数割れとなり政権運営が行き詰まったのが理由だ。議会最大勢力の「五つ星運動」はドラギ氏の首相就任に否定的な構えで、野村証券の春井真也氏は「たとえドラギ政権が誕生しても与党内での対立の火種はくすぶり続けるだろう」と指摘する。
イタリアは欧州連合(EU)でもドイツとフランスに次ぐ経済規模だ。英製薬大手アストラゼネカがEU向けのワクチン輸出を制限するなど、欧州全体で新型コロナウイルス感染への懸念が拭えていないなかで「イタリアの政情不安はEU全体の結束力に懸念をもたらし、ユーロ売りで反応しやすい」(三井住友トラスト・アセットマネジメントの押久保直也氏)という。
ソニーフィナンシャルホールディングスの森本淳太郎氏は「仮にドラギ氏がイタリア政治情勢を好転させたとしても、ワクチン普及が遅れる欧州全体の景気下押し懸念を払拭させるほどの力はない」と話す。ドラギ政権の誕生に不透明感が残るうえ、コロナ禍が長引く欧州では景気回復への期待も高まりにくく、ユーロ相場の本格的な反転上昇への道のりは険しい。