【QUICK Market Eyes 川口究】森喜朗元首相の女性蔑視発言をきっかけに、海外メディアが男女共同参画の遅れなど日本社会のあり方を報じるようになった。欧米で女性経営陣の比率が高まる中、ジェンダー・ダイバーシティーに富む企業は市場からの評価が高い。日本企業に限った場合でも例外ではなかった。ダイバーシティに優れた企業は非財務情報の開示にも積極的で、カーボンニュートラルの達成を考えるうえでも、さらなるダイバーシティの進展が期待される。
■パーフォーマンスにも差が
ジェンダー・ダイバーシティに富む日本企業が市場で評価されている。独ESG(環境・社会・企業統治)評価会社アラベスクSーRay社のダイバーシティスコアで日本企業を対象に5分位に分類し、スコアが最も低いバスケットと高いバスケットパフォーマンスを比較した。従来からダイバーシティに優れた企業は市場ニーズへの対応力の高さが指摘されており、商品開発や販売戦略を考える上で、多くの消費者の視点をもつ企業には優位性がある。女性役員が一定数以上いる企業は経営破綻の確率を減らせるという調査もある。組織的な視野が広がることで、リスク管理能力が高まり、変化に対する適応力が増すと考えられている。
2月15日には世界最大級の政府系ファンド、ノルウェー年金基金が取締役会の女性比率を高めることで、議論が活発になり、意思決定の改善につながるとして、ジェンダーの多様化に向けた目標設定を検討すべきだとの考えを示した。
※ダイバーシティスコアはESGスコア、サブススコアなどの算出元となり、取締役会、経営陣、および従業員全体を含む会社のさまざまな階層における女性の割合に焦点を当てた項目スコア。
※期間は2020年2月3日を起点として21年2月10日までのおよそ1年間
今年に入り米国では金融大手のシティグループやドラッグストア大手のウォルグリーン・ブーツ・アライアンスで女性CEO(最高経営責任者)が就任し、欧州では女性の役員登用拡大目指すNPO「EWOB」が20年に女性経営陣の比率が大幅に上昇したと報告するなか、グローバルでみた場合でも、ダイバーシティーに富む企業に対する市場の評価は高かった。
アラベスクSーRay社の分析によれば期間をおよそ10年間として、ダイバーシティスコアに基づく、5分位に分類したポートフォリオを作成し、それぞれ比較した結果、パフォーマンスはスコアの高いバスケット(Quintile 1)を筆頭に、分位に応じて低くなり、最も低いバスケット(Quintile 5)はQuintile 1を大きく下回った。
ダイバーシティスコアが最も高いバスケットをロングし、最も低いバスケットをショートしたダイバーシティ・ファクターリターンもまた同様に正となった。
さらに、ダイバーシティスコアが大きい企業ほど、株価収益率 (ROE) と株価純資産倍率 (PBR) の中央値が高い傾向が示された。
■非財務情報の開示にも積極的
企業にダイバーシティが浸透する効用はこれだけにとどまらない。同社の分析からは、ダイバーシティスコアの高い企業ほど温室効果ガスの排出データを開示する可能性が高いことも示された。ダイバーシティスコアが最も低い群では、温室効果ガス(GHG)排出量を公表してない企業は22%にのぼったが、スコアが最も高い群では15%にとどまった。
森喜朗元首相の女性蔑視発言をきっかけに、海外メディアが閉鎖的な政治や男女共同参画の遅れといった日本社会のあり方を報じている。AP通信は「森氏が去っても、性差別問題は残ったまま」と題する記事を配信。世界経済フォーラム(WEF)による世界各国の男女平等の度合いを示す指数で、日本は153カ国中、121位と低位にあるとした。そのうえで当発言に関して「日本の政界や企業での女性参画がどれほど遅れているかを浮き彫りにした」と報じていた。日本企業のさらなる評価向上や政府が目標と掲げる「(温暖化ガス排出実質ゼロを意味する)カーボンニュートラル」の達成を目指すうえでも、ジェンダー・ダイバーシティの進展が期待される。
<金融用語>
ダイバーシティとは
企業におけるダイバーシティ(多様性=Diversity)とは、多様な人材の積極的な活用や多様な働き方の実現を目指す考え方のこと。女性の登用推進のみならず、高齢者、外国人、障害者、LGBT(性的少数者)など様々な属性をもった人を受け入れ、働き方をサポートするための人事制度や職場環境を整えたり、それぞれの価値観やライフスタイルを尊重して勤務時間や場所の自由度を高めたりすることで個々の活躍への支援を行う。経営戦略としてダイバーシティを実践することによって、多様化する顧客のニーズに柔軟に対応し、企業の生産性や競争力を高める効果を狙う。