4月1日付で東京証券取引所の社長に就任した山道裕己氏が、報道各社のインタビューに応じた。2020年10月に発生したシステム障害を踏まえ「信頼回復と安定的な市場運営に努めたい」と強調。「世界の投資家や企業から選ばれる市場に向けた取り組みを進める」と語った。主な一問一答は以下の通り。(聞き手は日経QUICKニュース 大沢一将、中山桂一)
報道各社のインタビューに応じる山道裕己・東京証券取引所社長(東証で)
――就任にあたっての抱負と、昨年10月のシステム障害についての考えをお聞かせください。
「マーケットの運営者のミッション(使命)は『公正公平な売買機会の提供』だと考えている。昨年10月の障害は衝撃的だった。再発防止策の策定やシステムの改修などの仕組み作りを進め、信頼回復と安定的な市場運営に努めたい」
「大阪取引所の社長だった間に、どれほど時間をかけてもシステム上のバグをゼロにするのは不可能だと学んだ。(システムが)止まった時に復旧させるレジリエンス(回復力)が重要で、再発防止策の検討協議会でもそこに焦点をあてた。『総合的に判断』などと曖昧だった規定に具体的な数値が入った点は大きな一歩だと考えている」
「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂を市場区分の見直しにあわせて進めている。世界の投資家や企業から選ばれる市場になるために、重要なものだと考えている」
――22年4月の市場区分見直しについて、意義や背景を改めて教えてください。
「投資家に分かりやすく、各市場(再編後はプライム・スタンダード・グロース)のコンセプトを明確にするのが目的だ。プライム市場に上場する企業は、より高い水準のコーポレートガバナンス・コードへの対応が求められる。それをきっちり守るか、企業側も要件を意識することになる。現状の市場区分(東証1部、2部、ジャスダック、マザーズ)はコンセプトが明確でなくなってきた。1部上場の企業でも大小様々な時価総額の企業が混在するなど『ごった煮』という面もある」
■日本企業の魅力、海外投資家にも
――世界的な取引所間の競争で勝ち抜くための戦略は。
「日本取引所グループは海外の取引所と投資資金を奪い合う関係にある。競争で重要なのは、投資家にとって魅力的な商品があるか、十分な流動性があるかだ。取引の制度やシステムの安定性もポイントで、少なくとも海外の取引所と同等である必要がある」
「コーポレートガバナンス・コードの改訂を通じ、海外の投資家からみても上場企業が十分に魅力的になることを目指す。日本企業の魅力は相当高い。国際基準にあった取締役会の機能性やダイバーシティー(多様性)への取り組み、英語での開示の充実など、日本企業の魅力をさらに高める努力を継続的にしていく」
――世界中の取引所でビットコイン関連商品の上場に向けた取り組みが進んでいます。暗号資産(仮想通貨)を、どう捉えていますか。
「ビットコインは商品としてある程度のステータスを得ているのは事実だが、日本の取引所で扱うほどの一般性は確立していない印象だ。ただ、日本取引所グループとして動向は追っている。ブロックチェーン(分散型台帳)技術そのものについては、当社がスポンサーとなり金融機関などを巻き込んで検証を進めている」
■私設取引所の活性化、歓迎すべきこと
――3月には、米社が日本の私設取引システム(PTS)であるチャイエックス・ジャパンを買収すると発表したのも話題になりました。
「PTSの活性化は投資家の利便性の向上につながる。歓迎すべきだ。投資家がより売買しやすい環境が整い、市場のパイそのものが拡大すれば日本取引所グループにとってもプラスになりうる」
――市場の活性化や成長には、何が必要でしょうか。
「市場を運営する立場として、マーケットのエコロジー(生態系)を健全に保つ必要がある。あらゆる種類の投資家が自由に市場に出入りできることが重要だ。国内外の投資家に積極的なマーケティングをし続ける必要がある」
「(株式の)現物取引の65%ほど、大阪取引所のデリバティブ(金融派生商品)の75%ほどが海外投資家による取引だと認識している。市場として一段と成長するには、国内投資家の参加を促すことが重要だ。『貯蓄から投資へ』の流れを加速するために我々も真剣に取り組んでいきたい」
<略歴>
山道裕己(やまじ・ひろみ)氏 1977年野村証券(現野村ホールディングス)入社。2013年大阪証券取引所(現大阪取引所)社長。20年日本取引所グループ最高執行責任者(COO)。
〔日経QUICKニュース(NQN)〕