野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、QUICKが23日開いた「月次調査セミナー」で、新型コロナウイルス禍における米連邦準備理事会(FRB)の積極的な金融政策が金融市場にひずみを生んだ面があると指摘し、足元の金融政策正常化の流れは「正しい方向に向かっている」と歓迎する考えを示した。日銀は黒田東彦総裁の任期終了後に、FRBの利上げに歩調を合わせて正常化を目指していくと予想した。
セミナーはQUICKの創立50周年記念ウェビナー(全6回)の第3回として開かれ、「ポストコロナの金融 『市場の声』が示す未来図」というテーマで専門家の見方を聞いた。基調講演に木内氏、パネル討論にコモンズ投信の伊井哲朗社長兼最高運用責任者、アムンディ・ジャパンの有江慎一郎CIO(チーフ・インベストメント・オフィサー)兼運用本部長、みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストが登壇した。日本経済新聞の小栗太編集委員がモデレーターを務めた。
木内氏は、FRBが政策金利の引き下げやバランスシート拡大に加えて平均インフレ目標を導入したことで、市場が過度に緩和の長期化を織り込んで過熱し、ミューチュアルファンド(投資信託)やETF(上場投資信託)などにリスクが集中していると指摘した。迅速なドルの供給や金融ショックの抑制という点では評価しつつも、FRBの対応がやや「行き過ぎ」だったのではとの見方を示した。ただ、今後は8~9月にもテーパリング(量的緩和の縮小)を示唆する可能性があり、前回の利上げ局面と同様のタイミングと仮定すると、「2023年末には利上げが見込まれる」との考えを示した。
日銀は黒田総裁が任期を終える2023年4月以降、FRBの利上げ局面に乗じて円高リスクを抑えながら金融政策の正常化を進めるのが得策との見方を示した。黒田総裁の任期中は「(金融緩和の)副作用を抑えつつ、時間稼ぎをしている状態」が続くとみるが、仮に政策変更がある場合は、金利操作目標の短期化などが考えられると述べた。
パネル討論では、今後の国内株式・債券・外国為替市場について意見が交わされた。各国のワクチン接種率が金融市場に大きな影響を与えているため、「国内のワクチン接種率の上昇に伴い、夏場にかけて日経平均株価は年初来高値を突破するだろう」(コモンズ投信の伊井氏)との意見が出た。みずほ銀行の唐鎌氏は、ワクチンに加えて金利、原油などの商品が外国為替相場の押し上げ要因になっており、日本円はこれらの要素に乏しいこと、FRBが金融政策の正常化で先行することなどから、円安・ドル高基調が続くとの見方を示した。有江氏は、米長期金利は年内に2%超をメドに上昇する一方、国内金利の上昇余地は限定的として、足元では米国やオーストラリアなどが中長期の収益確保に魅力的だと指摘した。
リスク要因としてはウイルスの強毒化による新型コロナウイルスの感染再拡大などが挙げられた。一方でFRBによる金融政策の正常化が今後市場に大きな混乱をもたらすとの懸念は限定的だった。