(初回公開日2021年12月10日16:00)
【QUICK Money World 辰巳 華世】脱炭素社会の実現に向け、アンモニアが注目されています。アンモニアは燃やしても二酸化炭素(CO2)が出ないうえ、輸送手段などがすでに確立されているので、エネルギー分野での活用が期待されています。今回は、アンモニアとは何か、アンモニアが注目される理由、アンモニアの関連銘柄、アンモニア関連の具体的な注目銘柄について紹介します。
アンモニアとは
アンモニアは、常温常圧では無色透明の気体です。目には見えませんが、アンモニアと言えば、鼻をつくような刺激臭を思い浮かべる人が多いと思います。毒性があるので劇物として指定されています。
アンモニアは水素(H)と窒素(N)でできています。アンモニアの化学式は「NH3」です。アンモニアは燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さない特徴があります。常温常圧では気体で、セ氏マイナス33度で液化します。圧力や冷却により液体に変化したものは液化アンモニアと呼ばれています。
化学的に合成されたアンモニアの多くは、肥料の原料として使われています。他には合成繊維のナイロンなどの繊維の原料や、合成ゴムの原料として活用されています。これまでのアンモニアは肥料の原料として使われたり、化学製品の基礎材料として世界中で利用されてきましたが、ここにきてアンモニアはエネルギー分野での活用が期待されています。
アンモニアが注目される理由とは
アンモニアは、燃やしてもCO2を出さないので燃料として魅力的です。さらにアンモニアの良い点は、生産、運搬、貯蔵などの技術が確立され既存の輸送手段や貯蔵施設を使えるなどメリットが多いことです。
世界的な脱炭素の潮流の中、化石燃料に変わる「夢の燃料」として水素があります。ただ、水素は気体のままだと体積が大きくて一度に運べる量が少なく、可燃性で爆発の危険もあるなど輸送に難点があります。そこで、水素分子を含むアンモニアを水素の運び屋として利用することが期待されています。大量輸送が難しい水素を、輸送技術が確立しているアンモニアのかたちで輸送し、利用する場所で水素に戻すという手法の研究が進んでいます。
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また、運び屋としての活用だけでなく、アンモニア自身を燃料として活用することも期待されています。アンモニアは燃やしてもCO2を出しません。なので、石油、石炭、天然ガス等の化石燃料に代わる燃料として、環境保護の観点で優れています。石炭を使った火力発電にアンモニアを混ぜて発電することで、CO2の排出を抑えることができます。将来的にはアンモニアだけをエネルギー源とした発電を目指しています。
エネルギー分野でのアンモニアの活用は、政府や民間企業が進めています。経済産業省の資源エネルギー庁は2021年2月に「燃料アンモニア導入官民協議会」を開き、アンモニア燃料の使用量を2030年に年300万トン、2050年に年3,000万トンとする方針を設定しています。
三菱商事、伊藤忠商事、三井物産がカナダやオーストラリアでそれぞれ年100万トンの規模のアンモニア生産を決めており、日本政府の2030年目標は達成できる見通しが立っています。
脱炭素の流れからエネルギー分野でのアンモニア活用の期待が高まっていましたが、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰により、一段とエネルギーとしてのアンモニア活用に注目が集まっています。
経済産業省では、水素やアンモニアの普及に向け、新法を制定する方向で、2023年度の国会への法案提出を目指しています。コストがまだ高いため供給を担う企業に原則15年間にわたって支援したり、今後10年で貯蔵タンクなどインフラ拠点を8カ所ほど整備する方向です。国をあげてエネルギー分野でのアンモニアの普及に取り組む方向が示されており、アンモニアへの注目は一段と高まります。
民間企業では、東京電力グループ(9501)と中部電力(9502)が出資する発電会社である株式会社JERAは、「JERAゼロエミッション2050」を掲げてアンモニアを活用したCO2の削減目標を決めています。
※出所:JERA
燃料としてのアンモニアの活用は発電分野だけでなく、工場などで利用する産業分野や輸送分野など多岐での利用が期待されています。燃料電池でアンモニアを活用する研究や船のエンジンなど輸送分野で使用することが見込めます。
燃料として注目を集め利用が拡大しそうなアンモニアですが、課題もあります。現在アンモニアは自国で生産され、大半が肥料などとして自国消費されており貿易量は少ないです。生産設備も限られており、すぐに流通量を増やすことが難しい問題もあります。アンモニアが燃料として使われるようになった場合、供給不足になることが予想されています。日本でアンモニアを安定的に燃料として活用するには、海外からの調達だけでなく国内での生産を増やすことも重要と言われています。
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グリーンアンモニア?ブルーアンモニア?
エネルギー分野で、「グリーン水素」、「ブルー水素」という表現があります。再生可能エネルギーを使って作られたものが「グリーン水素」。一方、残ったCO2は地中に埋めたり工業原料に再利用するなどしながら石炭など化石燃料由来で作られたものを「ブルー水素」と呼びます。
アンモニア製造でも、化石燃料由来でCO2を回収することでCO2を排出させない「ブルーアンモニア」や水を電気分解した水素など再生可能エネルギーを活用した「グリーンアンモニア」の開発が進んでいます。
※アンモニアの生産過程でもCO2は排出される(出所:経済産業省・燃料アンモニア導入官民協議会)
アンモニアの関連銘柄とは
アンモニアの関連銘柄は多岐に渡ります。アンモニアを製造する企業、アンモニアから水素を製造する技術を開発する企業、アンモニアを使用した発電技術の開発企業などがあります。日揮ホールディングス(1963)はアンモニアを燃料を燃やした際に発生する高温・高圧ガスでタービンを回し発電するガスタービン発電に世界で初めて成功しています。
「アンモニア」関連の注目銘柄
アンモニアを製造する企業では日産化学(4021)、宇部興産(4208)、三井化学(4183)、昭和電工(4004)などがあります。アンモニアから水素を製造する技術を開発する企業では、住友化学(4005)、木村化工機(6378)、澤藤電気(6901)など。アンモニアを使用した発電技術の開発企業では、中外炉工業(1964)、東京電力ホールディングス(9501)、IHI(7013)などが注目されています。
このほか、燃料アンモニアの安定した供給を構築するために2020年10月に発足した「燃料アンモニア導入官民協議会」には商社や電力会社など複数の企業が参加しています。三菱商事(8058)、丸紅(8002)、電源開発(9513)、日揮HD(1963)、IHI(7013)、三菱重工業(7011)、日本郵船(9101)が参加しています。
まとめ
アンモニアは新たな発電燃料として注目を集めています。ただ、安定的な供給などに課題もあります。政府のアンモニア活用方針も2050年に向けて計画的に行われる施策のため、投資も長期で考えることがおすすめです。脱炭素社会の実現に向けたエネルギー分野でのアンモニアの活用と技術開発に今後も注目しましょう。
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