週末のロサンゼルスのスーパーマーケット。ステーキ用赤身肉は高級店なみの価格に値上がりしていた。クリスピークリームのドーナツ3個セットは1ドル49セントから2ドル99セントと倍になっていた。近所のスタンドのガソリン価格は落ち着いたように思えたが、ビバリーヒルズはガロン6ドル(リッター約180円)だった。感謝祭後にサンフランシスコにドライブ旅行した家族はガロン8ドル49セント(リッター約255円)に衝撃を受けた。「インフレをなんとかしてほしい」。米国で暮らすほとんどの人がインフレ対策を望んでいることは間違いない。
米労働省が10日発表した11月消費者物価指数(CPI)は前月比0.8%上昇。ダウ・ジョーンズがまとめた予想中央値0.7%より上振れした。ガソリン価格が前月比6.1%上昇したことが指数全体を押し上げた。前年同月比は6.8%上昇と10月の6.2%から加速。1982年6月以来39年ぶりの高水準だった。鶏肉、魚、卵が前年比12.8%上昇、牛肉は20.9%上昇した。変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIは前年比4.9%上昇。コア指数を重視するエコノミストは少なくないが、食品とエネルギーは米国での生活の必需品だ。7%近い総合CPIは市民の生活が圧迫されていることを示唆している。
米中西部州のトルネード(竜巻)、ロシアのウクライナ侵攻計画、新型コロナウイルスのオミクロン型変異種の感染拡大。10日から週末にかけて重大ニュースが相次いだが、11月CPIを主要メディアはトップ級で報じた。歴史的な高インフレとの見出しが並んだ。
ワシントン・ポスト紙は10日、経済回復や堅調な労働市場より、高インフレというネガティブなニュースに焦点をあてるメディアにホワイトハウスの高官が憤慨していると報じた。ABCニュースは12日、バイデン政権のインフレ対策を69%が不支持とするIpsosとの共同世論調査の結果を伝えた。CNBCの調査でバイデン大統領の経済政策を支持すると答えた有権者はわずか37%しかいなかった。来年11月に中間選挙を控えたバイデン大統領にとってインフレ抑制が最重要課題といえる。
連邦準備理事会(FRB)は14日と15日に金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)を開く。英フィナンシャル・タイムズ紙は11日、米民主党の中道派がFRBに対しインフレ抑制のため積極的な引き締めを求める要求を強めたと報じた。市場はテーパリング(量的緩和の縮小)ペースを現在の月150億ドルから300億ドルに倍増すると予想。INGのアナリストは、FRBがテーパリングを加速し来年2月に完了、ドットプロットが来年2回の利上げを示唆すると予想しているとコメントした。
FOMCメンバーの金利予測の分布をチャート化したドットプロットが金融市場を揺さぶる可能性がある。過去2回のドットプロットはドル相場押上げ要因になった。半年ぶりに会った米大手銀行のバンカーは、FRBが来年利上げサイクルに入る公算だが、政策金利の上限は2~2.5%程度に留まるのではないかと語った。1980年代の利上げサイクルと比べ、米国政府の債務が大きいからとの説明だった。JPモルガンは最新の顧客向けメモで来年末の米10年物国債利回りは2.15%と予想した。
米株式相場は11月CPIが予想を上振れたにもかからず上昇した。投資情報誌バロンズは期待された市場の反応と違ったと伝えた。CNBCは、FRBが予想以上に利上げを積極的に進めるとの予測を示さない限り、FOMCが株式市場に与える影響は限定的だとストラテジストが考えていると報じた。テーパリング加速と来年利上げに動くことは既に幅広い投資家が予想している、としている。社会問題だけではなく、政治問題になったインフレ。FRBの決定を、経済メディアだけではなく、幅広いメディアが大きく報じるかもしれない。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信