前回は「今年の経済・マーケットを表す漢字一文字」を発表しました(今年の漢字一文字は?、オミクロン株、2022年のインフレ見通し)。今週は「来年の経済・マーケットを占う漢字一文字」を発表します。
2022年を漢字一文字で表すと・・・
来年の一文字は「放」です。「束縛から、自らを解き放つ」、これが2022年ではないかと筆者は考えています。
2020年の米大統領選挙以降、格差是正・インフラ投資・気候変動対策といったリベラルな風が吹いてきました。2022年の中間選挙では、この流れがいったん逆に行くと思われます。リベラルな政策の多くは我々の生活や経済を束縛するものですが、すでにパンデミックが人々の生活を十分なほどに長く束縛してきたためです。
加えて、米国の有権者がパンデミックの私権制限に耐えていた頃、民主党は超党派インフラ法案の採決を先延ばしにし、単独可決を目指した歳出・歳入法案も一枚岩ではなく、「決められない政党」であることが露呈しました。リベラルも「いったんここまで」で、米国の有権者は、建国以来の自由を求め、自分たちを解き放つように思えます。
合わせて、金融緩和や財政出動という介入的な政策から、経済を解き放つのも2022年になりそうです。これを懸念する向きもありますが、米国の家計や企業による自由な経済活動は、世界の経済と金融市場を十分に支えるだけの力が(まだ)あると筆者は考えています。
2022年の株式市場見通し:「米国の大型・成長株式」以外への分散を
ここまで3回に分けて、2022年の見通しを全体観、米中経済、物価動向と見てきました。ひと言で要約すれば「2022年も米国が世界経済をけん引し、インフレは高止まりする」というものです。今回はこれらを受けて、株式市場の見通しをお伝えします。
「株式市場は2022年も堅調」と筆者は見ています。セクターで言えば、すでに時価総額の割合=投資家による保有が大きい「米国の大型・成長株式」以外への分散投資が望ましい局面と考えています。もちろん、米国の大型・成長株式は長期・継続保有でよいと考えています。
まず、企業業績については2022年も景気が拡大する中、堅調に増加すると見られます。【次の図】では、2022年の主要な株式指数・構成銘柄の増益率を見ています。市場アナリストの予想平均値です。【青色】の日本、米国、欧州を見ると、いずれも平年並みの増益率が見込まれています。【オレンジ】に目を転じると、地域別では、ドル高の影響もあり、新興国の増益率が先進国よりも低くなっています。
増益率並みの株価上昇を見込むのが妥当に思われる
次に、インフレと企業業績の連動性を見ておきます。【次の図】をぱっとご覧ください。すると【青色のライン】と【オレンジ色のライン】の連動が確認いただけると思います。
【青色】は先進国株式全体の予想1株利益の伸び、【オレンジ色】は米国のインフレ率です。すなわち、米国のインフレ率が高いときは、米国の景気が良いときですから、先進国全体の企業業績も高い伸びを示します。
【画面真ん中】に【水平の黒い線】を引いています。その線に沿って【左右の軸】を眺めていただくと、おおむね【右軸】インフレ率が2%のときに、【左軸】業績の伸びが10%程度です。
マーケットエコノミストによる予測中央値に従うと、来年は1年を通じてインフレ率が2.5%を超える見通しです。言い換えれば、【先の図】で見た「7%台後半」や「8%台」のアナリストの業績予想値は、幾分「保守的」に映ります。
この両者の差を埋めるのは、①原材料や製品、労働力の不足が売上高に悪影響を及ぼすリスクや、➁新型コロナウイルスの感染再拡大でしょう。逆に言えば、そうした可能性はすでにある程度、織り込まれているように見えますから、先のアナリスト業績見通しは下方修正のリスクよりも、上方修正のリスクが大きいと考えています。
「2022年を通じて、どの程度の株価上昇を見込むか」については、①業績のアップサイドリスクと、➁利上げによる株価収益率(PER)への下押し圧力を考慮し、「現在の保守的なアナリスト予想並みが妥当」(=8%前後の株価上昇率見通しが楽観的すぎない予想であろう)と、筆者は考えています。株式市場の変動性については、利上げ見通しが行ったり来たりすることで、少なくとも今年よりは大きいだろうと予想しています。
2022年の株式市場見通し(セクター):インフレ継続ならバリュー系のセクターが優位
セクターについて考えます。【下の図】に示すとおり、インフレ時には、テクノロジー系のセクターに比べて、バリュー系のセクターの業績が相対的に良好になる傾向があります。しかし、現時点では、企業アナリストは、【オレンジ色】インフレ率が示唆するほど、【青色】バリュー系のセクターの業績が優位になると見込んでいません。
ただし、アナリストの1株当たり利益(EPS)の引き上げはまだでも、マーケットのほうはアナリストに先んじてPERに織り込んでいる可能性がありますので、【下の図】のとおり、相対PERを確認しておきますが、依然として、バリュー系のセクターは割安です。
2022年の株式市場見通し(サイズ):インフレ継続なら小型株式が優位
次に、サイズについて考えます。これもセクターと同様の議論で、【下の図】に示すとおり、インフレ時には、大型株式に比べて、小型株式の業績が相対的に良好になる傾向があります。しかし、現時点では、企業アナリストは、【オレンジ色】インフレ率が示唆するほど、小型株式の業績が優位になるとは見込んでいません。
セクターと同様に、相対PERを見ておきますが、依然として、小型株式は割安です。
2022年の株式市場見通し(地域):インフレ継続で本来なら先進国株式(米国を除く)が優位
最後に、地域を考えます。【下の図】に示すとおり、2007年頃まで、インフレ時には、米国株式に比べて、先進国株式(米国を除く)の業績が相対的に良好になる傾向がありました。しかし、それ以降は、インフレとの連動性は薄れ、米国株式の予想EPSが長く優位でした。現時点でも、企業アナリストは、先進国株式(米国を除く)の業績が優位になるとは見込んでいません。
相対PERでは、先進国株式(米国を除く)が割安で、米国が割高な状況が続きます。
まとめると、地域については、先進国株式(米国を除く)の業績反発を期待したいところですが、米国株式の業績優位が続く可能性も否定できません。一方で、米国株式は依然として割高であることから、先進国地域については「中立」と見ています。
筆者は2022年も高いインフレ率が続くと見ており、「バリュー系セクターが優位、小型株式が優位、地域については中立」と見ています。これらをひっくり返すと「米国の大型テクノロジー株式以外に分散投資」をすることが一案と考えられます。
11月の振り返り(チャートだけ)
11月は下旬に入ってから、①新型コロナウイルスの変異種「オミクロン株」が確認されたことと、②パウエルFRB議長の再任およびテーパリング早期終了示唆により、短期金利上昇・長期金利低下・株下落となり、リスク資産市場や商品市場は全般に軟調となりました。
今後にとっても重要な出来事としては、以下が挙げられます。
・英当局による米メルク社の新型コロナウイルス飲み薬の承認
・米ファイザー社の新型コロナ・飲み薬の有効性を示す治験データの公表
・米議会での1兆ドルの超党派インフラ法案の可決
・米CPIインフレ率6.2%/PCEインフレ率5.0%
・中国共産党・6中全会での「歴史決議」の採択
・国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)での石炭火力発電の「段階的削減」を含む合意
・ドイツでの社民党を中心とする連立政権の合意
・(OPEC・石油輸出国機構とロシアなどの主要産油国から成る)OPECプラスによる原油増産の維持決定(12月に入ってから)
・米つなぎ予算の成立(来年2月半ばまで)
・中国の李克強首相による預金準備率引き下げ示唆
・中国当局による恒大集団への支援決定
ここから、チャート集です。興味がある市場について、状況をご確認ください。
フィデリティ投信ではマーケット情報の収集に役立つたくさんの情報を提供しています。くわしくは、こちらのリンクからご確認ください。
https://www.fidelity.co.jp/
- 当資料は、情報提供を目的としたものであり、ファンドの推奨(有価証券の勧誘)を目的としたものではありません。
- 当資料は、信頼できる情報をもとにフィデリティ投信が作成しておりますが、その正確性・完全性について当社が責任を負うものではありません。
- 当資料に記載の情報は、作成時点のものであり、市場の環境やその他の状況によって予告なく変更することがあります。また、いずれも将来の傾向、数値、運用成果等を保証もしくは示唆するものではありません。
- 当資料にかかわる一切の権利は引用部分を除き作成者に属し、いかなる目的であれ当資料の一部又は全部の無断での使用・複製は固くお断りいたします。