【日経QUICKニュース(NQN)】金融情報会社のQUICKは22日夕、都内で月次調査セミナーを開いた。基調講演したピクテ投信投資顧問の市川真一シニア・フェローは「時代は変わった」と話し、インフレ時代の到来を強調した。ロシアのウクライナ侵攻による市場環境の変化を背景に「成長株の時代は終わった」との考えを示した。
足元で米インフレ率や米長期金利は上昇している。市川氏は「市場のリスク許容度は低下せざるを得ない」とし、金利低下時代に恩恵が大きかったハイテク株の優位性が薄れる可能性を示唆した。その上でインフレや金利上昇、地政学リスクへの耐性がある資産を主な投資対象とする方針を掲げた。
米国はIT(情報技術)以外にもエネルギー産業や軍事産業などでトップ企業を抱えている。市川氏はオールドエコノミーでも米企業に優位性があるとし「長期的に米国を投資対象から外すのは難しい」と語った。
米国経済については「リセッション(景気後退)にはならない」と予想した。人手不足による賃金上昇で個人消費が底堅く推移する点を根拠として挙げた。円相場の動向については日米の金融政策の方向の違いを背景に「この状況だと円安はまだまだ続く」との見方を示した。
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■木野内栄治氏、米利上げ「9月には厳しい局面終わる」
一方で大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリストも登壇し、米連邦準備理事会(FRB)の利上げについて「9月には厳しいところが終わる」とし、利上げペースが鈍化していくとの見方を示した。
講演では西暦末尾が2の年に東証株価指数(TOPIX)が調整しやすいアノマリー(経験則)を紹介。高速通信規格「5G」など新しい通信規格の設備投資が一巡すると「日本の状況もよくない」と話した。主要な半導体関連銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX)については「3年サイクルの終盤にさしかかっている」との見解を示した。
世界の株式相場については「政策変更が進まないと底入れしない」と強調。FRBの現行の急速な金融引き締めや中国の預金準備率の引き下げといった政策を注目点として挙げた。
■瀬良・深谷・芳賀沼3氏が討論
「インフレ到来、金融市場の新常識」と題したパネルディスカッションでは、三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジストが日本の長期金利について「来年度末(24年3月末)で0.5%プラスアルファ」との見通しを示した。最近の食料品などの価格上昇の波状的な動きを踏まえると「来年度も消費者物価指数(CPI)の上昇率が2%に近い可能性もそれなりに高い」と指摘。物価の高止まりを背景に、日銀が「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)を修正する可能性がある」とし、操作目標の対象を「10年金利から5年金利にし、市場機能を回復させる方向に動く可能性がある」と語った。
米経済の見通しについて瀬良氏は、利上げの最終局面の後に景気後退期を迎えるパターンが多かったとして、今回の米利上げ後も「(程度が)浅いながらも景気後退は免れないのではないか」と述べた。マーケット・リスク・アドバイザリーの深谷幸司フェローも10~12月期に急激な減速感が強まるとしたうえで、景気悪化に伴い米長期金利も「来年は低下がみえてくる」と述べた。米長期金利は6月に入って一時3.5%近くまで上昇しており「ほぼほぼのところまで来た」として、今後の上昇余地は限られるとの認識を示した。
深谷氏は為替動向について、日銀の政策修正の思惑も手掛かりに投機的な円売りが膨らんでいるとして目先は「荒れ相場」が続き、7~9月に「1ドル=140円」まで下落する可能性もあると予想。一方で投機的な売買が一巡すれば来年に向けて「1ドル=125~130円のゾーンに戻ってくる可能性が高い」と話した。
三菱UFJ信託銀行の芳賀沼千里チーフストラテジストは、主要な中央銀行がインフレ抑制を優先するなか「いざとなれば中銀がマーケットを支えるという状況は完全に変わった」と指摘。「秋口以降、世界的に株が下がるリスクは高い」と指摘。22~23年は「相対的には米国株より日本株の方が(パフォーマンスが)良い」と予想した。背景としては、業界再編などを通じて自己資本利益率(ROE)の改善する余地が大きいことなどを挙げた。
モデレーターは日本経済新聞社の小栗太編集委員が務めた。