【QUICK Money World 片岡 奈美】投資をするときに資金を振り向ける先は、何も国内ばかりとは限りません。海外の株式や債券などの金融商品が魅力的に見えることもあるでしょう。けれど海外投資につきものの為替相場の動きはプロですら見通しにくいとされる世界。為替リスクを懸念して投資に踏み切れない時もあるかもしれません。為替ヘッジとは、為替リスクを小さくする仕組みのことです。為替ヘッジのあり・なしには両方にメリット・デメリットがあり、どちらが良いとは一概に言えません。使い分けが大事です。今回は、為替ヘッジの選び方について紹介していきます。
為替ヘッジとは
ヘッジ(Hedge)とは「(リスクや損失の)回避」を意味する英語です。一般に「ヘッジ取引」といわれるものは、現物の価格変動リスクを、先物取引などを利用して回避しようとする取引のことを指します。為替ヘッジとは為替の変動リスクを小さくする仕組みのことです。
海外の金融商品に投資をする場合、基本的にその商品は現地通貨で取引されます。日本から投資をする場合は、手持ちの円を現地通貨に交換して海外資産を買い付けて運用します。いつかその運用を止める際には、現地通貨を円に再び交換することになるでしょう。
例えば、対ドル相場のレートが1ドル=100円の時に、1万ドル分の海外資産を購入するとします。必要になる日本円は100万円です。運用損益はさておき、対ドルで1円円高が進むと1万ドルの資産は日本円で99万円分になります。逆に円安方向に振れると、円換算の資産価値は膨らみます。買い付ける時よりも円資産に戻すときの方が円安になっていれば為替差益が望めますが、相場が思うとおりに動くとは限りません。為替相場が大きく振れると、こつこつと運用で増やした運用利益すら吹き飛ばすほどの為替差損を被ってしまう――なんてことも十分にあり得ます。
そうならないよう、外貨で運用する際は円貨に戻す時期に備えて、先物取引であらかじめ将来交換する為替レートを予約してしまうのが「為替ヘッジ」という取引です。
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為替変動リスクとは
投資の世界では、単純に「損をする」ことばかりがリスクというわけではありません。リスクとは、値上がりすることも値下がりすることも含め、この先どうなるかわからない「不確実さ」のことを意味しています。
為替変動リスクも同様に、為替相場の変動によって外貨建て資産の価値が変わってしまう可能性のことを指します。「損」「得」のくくりではなく、為替レートの動きが投資成果に影響を与えてしまうことを為替変動リスクと呼んでいるのです。
為替ヘッジをしない場合のメリット・デメリット
リスクといいつつ、得をする場合もあるのか…と思われた方もいらっしゃるかもしれません。為替レートが変動する不確実性があなた自身の投資行動にとってさほど問題ではないと思えれば、あえて為替リスクをヘッジする必要はありません。
為替ヘッジを付けないことのメリットは、為替差益の獲得が期待できることでしょう。2022年10月には円相場は対ドルで一時150円台と、およそ32年ぶりの円安・ドル高水準を付けました。
このチャートは足元6年ほどの対ドルでの円相場の動きです。上に行くほど円安が進行していることを示します。➀や②の時点で金融資産を購入し③のレートで売却すれば、為替差益を得ることができます。外貨建て資産を購入した後に円安が進行すれば、金融資産の運用益に加え、僅かとは言えない額の為替差益を得ることも可能です。
為替ヘッジなしのデメリットはその逆ですね。上記のチャートの①の時点で外貨建ての金融資産を購入し、②の時点で売却した場合、②では円高が進行していますので、為替ヘッジなしでは為替差損が発生してしまいます。
為替ヘッジをしなければ、金融資産そのものの運用損益とは別に、得をすることも損を被ることもあるということです。
為替ヘッジをする場合のメリット・デメリット
為替リスクを回避(ヘッジ)する目的は、円高の進行による損失を避けることにあります。為替相場の影響による資産価値の変動を気にせずに、外国株式や外国債券などの運用益をしっかりと狙いたいという方には十二分なメリットがありそうです。
円高になると海外資産の価格が上昇しても為替差損が発生し、最終的な収益がマイナスになってしまう――そんな事態も避けることができます。もちろん、円安では逆のことが言えますが、為替レートの先行きを見通すことは困難です。為替ヘッジをすることで、見通せないリスク要因を排除し、純粋に海外資産の運用収益を追求することができるのです。
為替ヘッジのデメリットは、コストがかかることでしょう(コストがかからない場合もあるのですが、それは後述します)。また、円安による海外資産の値上がりの恩恵も享受できません。為替ヘッジは為替リスクの相殺を目指すものですから、円高による資産の目減りを減らせる一方で、円安の恩恵も小さくなります。
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為替ヘッジのポイント
為替ヘッジの有無について、メリットとデメリットを紹介してきました。ここでは仕組みについて簡単にみていきましょう。
為替ヘッジをするにはコストがかかる――と前述しましたが、これは“必ず”ではありません。実はかからないこともあるのです。為替リスクをヘッジするには、将来交換する為替レートをあらかじめ予約する取引「為替先物予約」を使います。この取引にかかる費用が、為替ヘッジのコストです。
為替ヘッジでは「投資先の現地通貨の短期金利」と「日本円の短期金利」の差がコストになります。投資先の通貨の短期金利が日本円のものよりも高い場合は、コスト負担が必要になり、為替ヘッジにかかる費用が発生します。逆に、投資先の通貨の短期金利が日本円よりも低ければ、為替ヘッジを付けることでプレミアム(収益)が発生します。
日本銀行が大規模な金融緩和を続けるなか、日本の短期金利は諸外国に比べ低く抑えられています。(短期金利とは、取引期間が数日、数カ月など1年未満の取引に用いられる金利のことです。1年以上の取引に用いる金利は長期金利と呼ばれています。)現状では日本よりも金利の低い通貨はあまりないでしょうから、為替ヘッジをするとほぼコストが発生すると考えてよいでしょう。
為替ヘッジ「あり」と「なし」はどちらがおすすめ?
為替リスクをヘッジすることにもヘッジしないことにも、それぞれメリットとデメリットがあることはお伝えしましたが、ご自身の投資スタイルを踏まえてどう感じられたでしょうか。投資時期や投資期間によってそれぞれに有利不利が生じてしまうので、ご自身の状況に合わせて判断されることをおすすめします。
為替ヘッジ“あり”をおすすめ
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- 海外資産への投資では、為替変動の影響を少しでも抑えたいと考える方
- 今後円高になると予想する方
為替ヘッジ“なし”をおすすめ
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- 今後円安になると予想し、為替差益を狙いたい方
- ヘッジコストが負担だと感じる方
為替ヘッジをするとほぼコストが発生するとお伝えしましたが、為替ヘッジのコストは基本的に「常に」かかるので、投資期間が長くなるほど負担は重くなります。投資信託や金融機関によっては、金融商品を購入した後に同一商品で為替ヘッジのあり・なしを切り替える「スイッチング」ができるケースもあります。ご自身の運用期間や運用目標、リスク許容度などを確認されたうえで、どちらにするかを選んでいただければと思います。
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