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米株の「次の30年」と資産運用を続けるための解決策 (フィデリティ投信 重見吉徳氏)

記事公開日 2023/2/8 12:00 最終更新日 2023/2/8 19:20 利上げ 資産運用 フィデリティ 分散投資 米株 海外株 日銀 FRB

前回の話を要約しますと、過去150年の米国株式市場のデータに基づけば、

  • 【観察①:業績】実質1株利益は、「過去30年」を含め、おおむね年率2%で増加してきた、

S&P500の実質1株の伸び(年率)

  • 【観察②:株価】しかし、「過去30年」の米国の実質株価上昇率は、「それ以前の120年」の株価上昇率と比べて異例に大きい、

S&P500の実質株価の伸び(年率)

  • 【観察③:株価の異例な上昇の要因】「過去30年」において観察された、「業績の伸び」を大幅に上回る「株価の上昇」は、株価がその分、割高になったことを意味する。言い換えれば「バリュエーション(株価収益率;PER)の上昇」である、

S&P500のPER・バリュエーションの伸び率相当分

  • 【考察:バリュエーション上昇の要因】バリュエーションの異例な上昇は、金利の異例な低下によるものと推測される、

米長期金利の変化幅

したがい、

  • 【仮定と結論】(すでに金利はゼロ金利の下限に達しているため)「次の30年」において、「過去30年」のような金利の異例な低下がなければ、実質株価は「それ以前の120年」の標準的な上昇率に回帰する、

となります。

過去150年の米国長期金利の推移

重要な示唆は、

  • 「過去30年」は、株式市場「全体」が異例に大きく上昇する「超ラッキー」な状況であり、たとえばインデックス投資が多くの個人投資家に富をもたらしてきたものの、「次の30年」はそうではない、

ということです。

「次の30年」における米国株式市場の期待リターン

前節に従えば、「次の30年」における米国株式市場は、次のようにまとめられます。

  1. 【業績】実質*1株利益は、過去150年並みの「年率2%程度で増加する」、
  2. 【バリュエーション】「過去30年」のような金利の異例な低下トレンドは期待できないため、株価収益率(PER)の異例な上昇は繰り返されず、PERはそれ以前の120年並みの「横ばいである」、
  3. 【株価】上記1および2を足せば、実質*株価は「年率2%程度で上昇する」。

ただし、上記は「長期の見立て」であり、単年の動きは異なります。また、たとえば、景気後退に行けば、(「トレンド」としてではなく)短期的に金利がゼロ下限に戻ることはありえるでしょう。

*業績や株価を実質で考える理由は、購買力が重要であるためです。株価が10%上がっても、物価が20%上がっていれば、豊かにはなっていません。賃金も同様であるため、われわれは企業に対し、少なくとも物価上昇分の賃上げを求めます。実質で考えることは生活(貨幣経済)の基本です。別の角度から言えば、「インフレ率が高い時期」と「インフレ率が低い時期」の株価上昇率を比べる場合には、各時期のインフレ率を差し引かなければ、株式市場は実際のところどう動いたのか、企業は実際のところどの程度稼いだのか、あるいは投資家にどのようなリターンをもたらしたのかはわかりません。

「次の30年」における資産運用の理想と現実

「次の30年において、米国株式市場は物価調整後、年率2%程度で上昇する」とき、資産運用に関する示唆は次のとおりです。すなわち、

  1. 【理想】資産運用は続けるべきである、
  2. 【現実】資産運用をあきらめる人が出てきても不思議ではない。

まず、【理想】について考えると、「リスク資産の中心」である米国株式は長期では、物価を上回るリターンを生み出すわけですから、資産運用は継続するほうがよいと言えるでしょう。

しかし、【現実】について考えると、次の30年において米国株式の実質リターンが、過去30年の「年率6%」から、それ以前の「年率2%」に鈍化する場合、実質リターンはその分「ゼロ」に近づくわけですから、サイコロの転がり方・サンプル次第では、たまたま何年か、リターンがマイナスの年が続くことも考えられます**。

実際、【次の図】に示すとおり、過去150年における実質株価の推移を見ると、過去30年に先立つ120年間においては、長期間「横ばい」ないし「下落」して低迷することがありました。

米国の実質株価(S&P500)

「次の30年」において、株価が「過去30年」のような異例な上昇を見せず、「それ以前の120年」に回帰する場合、実質株価が長期間低迷して資産運用をあきらめる人が出てきても不思議ではありません。なぜなら、「投資家心理」が投資家の行動に影響を与える可能性があるためです。「過去30年」の成功体験の再現を期待した人は、大きな期待外れに直面するでしょう。

**過去150年の実質株価の変動率(ボラティリティ)は「年率14.2%」です。仮にリターンが正規分布に従うとすると、株価の実質リターンが「年率6%」から「年率2%」に鈍化する場合、リターンがマイナスになる確率は「約34%」(≒3年に1回程度マイナスになる)から、「約44%」(≒2年に1回程度)に上昇します。

「次の30年」の対処法:自他をある程度信用し、自分はやれることに注力

「次の30年」においては、【理想】30年間ずっと続ければ報われると考えられるものの、【現実】株式市場「全体」のリターンは長期間低迷して資産運用をあきらめる人が出てきても不思議ではありません。

資産運用を続けるための解決策は、

  1. 【長期ではなく、超長期の平常心を保つ】インデックス投資の場合には、インフレに負ける期間がどれほど長く続こうとも資産運用を継続する胆力か鈍感力を身に付ける、
  2. 【市場全体には頼らない】アクティブ・ファンドに投資をする、
  3. 【市場全体には頼らない】銘柄を選択する、

となるかもしれません。こうした場合はたいてい、すべてに分散することが答えです。

とはいえ、超長期の胆力や鈍感力を身に付けるのは簡単ではないでしょう。

アクティブ・ファンドについては、たとえ長期の実績があり、強固な運用哲学を持つファンドでも毎年勝てるわけではありません。ですから「共感できる運用哲学」を持つファンドや運用会社を選ぶことが重要です。「ファンになれるかどうか」が判断基準と言えるでしょう。

ちなみに筆者は、銘柄選択を除外します。

ダリオがよく言いますが、金融市場には、投資の研究に、億単位のお金をつきごみ、過去数百年の歴史を調べ、24時間365日、良い銘柄を探しているプロが大勢います。ヘッジファンドもそうですし、上記のアクティブ・ファンドの運用者も同様です。

勝つためにはまず、相手がどんな人なのかを考えなければなりません。たとえば、麻雀やポーカーにも運の要素がありますが、プロにチャレンジしようとは思わないでしょう。また、そのプロに自分のお金を増やしてもらおうと思う場合、いくらかのコストを負担するでしょう。

資産運用の成果=(現在の投資金額+将来にわたる所得-将来にわたる消費)×将来にわたる収益率、です。

このうち、銘柄選択は「将来にわたる収益率」を高める要素です。筆者は、非力な市場参加者としてプロと戦うことに時間を使うよりも、その部分は市場全体やプロに委ね、「将来にわたる所得」を高めることに時間を使うほうが、資産運用の成果を増やす近道であると考えています。

まとめれば、①自分の鈍感力や胆力もある程度信じ、②厳しい世界で生き残っているアクティブ・ファンドの運用者もある程度信じ、そして、③自分は自分ができることに注力する、といったところでしょう。

 


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著者名

フィデリティ・インスティテュート マクロストラテジスト 重見 吉徳

20208月、フィデリティ投信入社。農林中央金庫や野村アセットマネジメントにて外国債券の運用に従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年に J.P.モルガン・アセット・マネジメントに入社。個人投資家や金融機関、機関投資家向けに経済や金融市場の情報提供を担う。昭和の歌が好き(演歌・洋楽を含む)。


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