「2008年は2週間、今年は24時間」。ワシントン・ミューチュアル出身のJPモルガン・チェースのバンカーは「バンクラン(取り付け)」のスピードの速さに恐怖を覚えたと語った。2008年9月のリーマン・ブラザーズ破綻を受けワシントン・ミューチュアルから約2週間で167億ドル(現在のレートで約2兆1700億円)の預金が引き出された。米銀史上最大規模の破綻につながり、JPモルガン・チェースに買収された。当時の主要紙トップを飾った見出し「バンクラン」が復活した。フォーチュン誌は「わずか1日でシリコンバレーバンク(SVB)から420億ドル(約5兆4600億円)のバンクランが発生した」と報じた。
バンクランは幅広い中小規模の米銀に連鎖した。米連邦準備理事会(FRB)のデータによると、3月15日までの1週間で米銀預金口座から984億ドル(約12兆8000億円)が引き出された。クレディ・スイスの問題も影響し、預金者は「質への逃避」に動いた。データサービス会社EPFRによると、3月初め以降に2860億ドル(約37兆2000億円)の銀行預金が米国のマネー・マーケット・ファンドに流出した。英フィナンシャル・タイムズ紙は、ゴールマン・サックス、JPモルガン・チェース、フィデリティが最も恩恵を受け、巨額資金が流入したと報じた。過去2週間で米大手3社の低リスクなマネー・マーケット・ファンドへの資金移動が加速したとしている。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は22日、0.25%利上げを決めた連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、預金流出の速さは想定外だったと述べた。SVBの経営は酷かったが、多くの銀行は健全だと強調した。ほぼ同じタイミングでイエレン米財務長官は、預金の全面的な保護は検討していないと上院の公聴会で証言した。フィナンシャル・タイムズ紙は、パウエル議長とイエレン議長から銀行危機対応で明確なメッセージが発せられず、銀行預金に対する不安は解消されなかったと報じた。サマーズ元米財務長官は25日、ブルームバーグTVのイベントで、イエレン米財務長官と米金融当局トップに対し、破綻する銀行の保険対象外預金を今後1年は保護すると宣言するように訴えた。
米地銀危機が商業不動産に波及するリスクがあるとの指摘が少なくない。新型コロナウイルス禍はほぼ解消されたが、ロサンゼルス市内でオフィスビルや小売店舗の空きが目につく。商業不動産市場の低迷を、幅広いメディアが報じる。ウォール・ストリート・ジャーナルは、中小規模の銀行が融資を縮小する可能性があると報じた。大手25行より規模が小さい銀行による融資額は全体の38%、商業不動産ローンは67%を占めているとしている。ゴールドマン・サックス・リサーチのラムスデン氏は24日付けメモで、銀行業界のストレスが最初に波及するのは商業不動産とみられると警告し、今後数カ月にわたり注視する必要があるとコメントした。ヤフーファイナンスは24日、トラブルを抱える商業不動産が銀行危機で深刻化する恐れがあると伝えた。
米ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は、26日放送のCBS「フェイス・ザ・ネーション」のインタビューで、SVBとシグネチャーバンクの破綻に関連した質問に対し、「他の銀行も大量の長期国債と商業不動産ローンを保有している」と指摘した。銀行に対するストレスが米経済をリセッション(景気後退)に近づけるリスクがあると述べた。5月のFOMCを予測するのは時期尚早であり、状況を注視していくと語った。CBSの最新世論調査によると、FRBの銀行問題をめぐる解決能力を強く信頼していると答えた人はわずか15%だった。銀行に対する幅広い不安心理は当面続きそうだ。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。