【日経QUICKニュース(NQN) 佐藤梨紗】ドルの対円相場では、チャート上の「雲」が下値を支えている。米国でインフレ高止まりの可能性や景気減速懸念の後退を見込んでドルには反発の機運が生まれている。もっとも、テクニカル分析では1ドル=132円台前半を円高・ドル安へ抜けるとドル売り加速の可能性も示唆する。相場は今後の方向性を決める分岐点にさしかかっている。
12日の東京外国為替市場では1ドル=134円台と1カ月ぶりの円安・ドル高水準を付けた。米国の根強いインフレ圧力や景気の底堅さから、市場参加者が意識する132円20銭近辺を割らずに反発に向かった。この水準は、現時点の週足の一目均衡表の「雲」の下限にあたる。
一目均衡表では過去の一定期間の高値と安値の平均値や中間値をもとに、現在の値動きが今後の相場へどのように影響するかを示す2本の「先行スパン」がある。この2本に挟まれた範囲が「雲」で、下値を支持したり上値の抵抗となったりする水準として意識されやすい。
■IMF、米経済は上方修正
米国では12日に3月の米消費者物価指数(CPI)が発表となる。ダウ・ジョーンズ通信がまとめた市場予想では、食品とエネルギーを除いたコア指数は前年同月比5.6%上昇と、2月から伸びが加速する見通しだ。ニューヨーク連銀が10日に公表した消費者の1年先の期待インフレ率は5カ月ぶりに上昇している。
国際通貨基金(IMF)が11日に公表した経済見通しでは、2023年の世界経済の成長率は2.8%に下振れしたが、米国経済に限ると1.6%成長と前回1月時点から0.2ポイント上方修正している。日本は1.3%と0.5ポイントの下方修正だった。SMBC日興証券の丸山義正氏は「22年10~12月の米国内総生産(GDP)が底堅さをみせたことで(IMF見通しの)上方修正につながった」とみる。米銀の相次ぐ破綻は「米景気を劇的に悪化させる要因とは、現時点でIMFはみていない」とも分析する。
イエレン米財務長官は11日、3月に高まった金融不安について「米国の銀行システムは強固な資本と流動性を持って健全性を維持している」と述べた。貸し渋りなどによる米景気の悪化への過度の警戒感は和らいでいる。
■「三役逆転」なら円買い・ドル売りも
金利先物市場の動向から米金融政策を予測するシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の「Fedウオッチ」をみると、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の利上げ後、6月会合では金利据え置き、今年後半にかけて計0.75%の利下げ(0.25%利下げなら3回)が最も有力視されている。
米国の景気の底堅さやインフレ圧力の根強さを考えると、市場の利下げ織り込みは前のめりすぎの可能性がある。新しい日銀総裁となった植田和男氏が就任会見で現行の大規模緩和の継続を強調したため、日米の金融政策の方向性の違いも円売り・ドル買いにつながりやすい。
もっとも、ドルからみて一目均衡表の「雲」をひとたび下抜けると、その他の条件などと合わせ「三役逆転」と呼ばれる強力な円買い・ドル売りのシグナルとなる。雲は今のドル強気派にとって相場下支えの「頼みの綱」ともいえる。
日足で一目均衡表をみても、132円50銭近辺より円高・ドル安が進むと、三役逆転のシグナルが点灯する。マネーパートナーズの武市佳史氏は「132円台前半から半ばが、ドルの下値支持線になっている」とみる。しぶとい米インフレ圧力がドルを下支えしており、まもなく発表の3月の米CPIは相場の方向性を見極めるうえで試金石となる。