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三井住友FGのAT1債は「スイスと異なる」で需要積み上げ

記事公開日 2023/4/20 14:30 最終更新日 2023/4/20 14:30 為替・金利 社債 銀行株 UBS クレディ・スイス SVB 金融不安 AT1債 NQNセレクト

【日経QUICKニュース(NQN) 田中俊行】三井住友フィナンシャルグループ(8316)は19日、総額1400億円のAT1債(永久劣後債)の発行条件を決めた。3月中旬にスイス金融大手クレディ・スイス・グループのAT1債が無価値となってから「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)」によるAT1債の発行は初めてとなる。邦銀のAT1債は元本削減に至る条件が相対的に明確となっていることが投資家の需要を積み上げ、「無価値化ショック」を乗り越えて大型起債に至った。

 三井住友FGが起債したのは、5年3カ月目以降と10年3カ月目以降の任意償還条項がつく2本。発行額はそれぞれ890億円と510億円で、任意償還されない期間の利率はいずれも国債利回りに対する上乗せ幅(スプレッド)をプラス1.71%とした。

◎1本目
・発行額=890億円
・表面利率=当初5年2カ月1.879%
      5年3カ月目以降は5年国債金利+1.710%
      (5年ごとに改定)
・発行価格=100円
・対国債利回り=+1.71%(10年351回債)

◎2本目
・発行額=510億円
・表面利率=当初10年2カ月2.180%
      10年3カ月目以降は5年国債金利+1.710%
      (5年ごとに改定)
・発行価格=100円
・対国債利回り=+1.71%(10年370回債)

 AT1債は調達資金を自己資本に算入でき、満期がない永久劣後債となる。弁済順位が他の債務に劣後するのに加え、実質破綻時には損失を吸収する役割を果たす。バーゼル規制では普通株式等自己資本(CET1)比率が5.125%を下回ったり実質破綻と認められたりすると、金融システムへの悪影響を回避するために投資家が損失を肩代わりする形で元本が削減されて自己資本が増える。

 3月にはクレディ・スイスが発行したAT1債の無価値化となったばかり。自己資本比率が基準を満たす状況にもかかわらず株式に劣後する形で同社のAT1債が全額毀損し、他の金融機関のAT1債でも想定外の元本削減が起こりうるのではないかとの警戒感から三井住友FGの起債運営も影響は避けられなかった。しかし、主幹事を務めたSMBC日興証券は「比較的早い段階で『邦銀とスイスは異なる』との共通認識が広がり、購入を検討する声が聞かれた」と指摘する。

 日本では銀行が実質破綻状態と認定されるには、債務超過に陥り特別な資金援助や一時的な国有化といった預金保険法上の措置を受けた場合と明確に示されている。債務超過ではない状況で公的支援がなされるだけでは実質破綻とならず、AT1債の元本は削減されない。みずほ証券の大橋英敏氏は「CET1比率がトリガー水準を下回る前に政府が予防的な資本注入に動くとの見方が市場では一般的だ」と話す。

 クレディ・スイスのAT1債の目論見書には元本削減に至る条件の1つに「公的機関による特別な支援」の記載もあり、無価値化はこの特約に基づいた措置だった。日本で定められる実質破綻の条件に比べると曖昧で、「元本削減の条件を明確化している日本でクレディ・スイスと同様のことは起きない」(国際金融筋)。この見方が再確認されたのにつれ、三井住友FGのAT1債には需要が集まった。

 SMBC日興によると「三井住友FGが昨年12月に発行したAT1債の売買参考統計を参考に投資家の需要を探った」という。クレディ・スイスの無価値化により流通市場でAT1債の取引が手控えられていたためだ。投資家目線が定まらず国債利回りの変化も不安定ななかで、需要調査の前段階である「サウンディング」を3月31日~4月12日の9日間行い、スプレッドと利率の両方を広めのレンジで提示した。

 今月13日からはスプレッドを提示して需要調査を開始。「発行総額が300億~400億円程度では需要が乏しいと受け止められる可能性があり、総額500億円以上の潜在需要が確認できてから需要調査に移った」(SMBC日興)という。最終的にはいずれも発行額と同じ程度の需要を積み上げ、販売先は生保や信託銀行、投信投資顧問など中央の投資家に加え、系統下部や地方公的、諸法人といった地方の投資家もあわせて100件を超えた。

 スプレッドは昨年12月に発行したAT1債から拡大した。スプレッドの変化について、SMBC日興は「必ずしも邦銀のAT1債に対する信用プレミアムの拡大だけが反映されているわけではない」と説明する。一方、条件決定にあたって参考にした売買参考統計値で債券価格が下落した背景には、AT1債の流動性リスクが警戒された面があるのは確かだ。

 ある国内運用会社の担当者は「海外の金融機関で再びAT1債が無価値化したりAT1債の任意償還を見送ったりすれば、邦銀のAT1債もあおりを受ける可能性がある」と指摘。そのうえで「社債市場に追い風が吹く環境となってもAT1債のスプレッド縮小は出遅れるのではないか」とみる。

 三井住友FGのAT1債の発行総額は1400億円と前回(1070億円)を上回った。5月中旬以降には三菱UFJフィナンシャル・グループが2本立てAT1債を発行する予定だ。クレディ・スイスの無価値化という波乱を乗り越え、三井住友FGが大型起債にたどり着いたのはAT1債市場にとってプラス要因だといえそうだ。


著者名

日経QUICKニュース(NQN) 田中 俊行


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