【日経QUICKニュース(NQN) 西野瑞希】9日午後の東京株式市場で日本郵船(9101)は決算発表後に売られ、1カ月ぶりの安値を付ける場面があった。2023年3月期決算と併せて発表した24年3月期(今期)の業績見通しが市場予想を下回ったためだ。業績面に加え、株主還元の側面でも「物足りない」との声が多い。海運市況の先行き不透明感は強く、株価が本格的な戻りを試すには時間がかかりそうだ。
9日午後に郵船株は一時、前の日に比べ101円(3.2%)安の3052円と4月3日以来の安値を付けた。9日正午に発表した今期の連結純利益は前期比80%減の2000億円と、市場予想の平均であるQUICKコンセンサスの2292億円(3月15日時点、10社)を下回った。「保守的な見通しの印象を受けるが、第一印象はやや悪い」(国内証券のアナリスト)と受け止める市場参加者が多かったもようだ。
市場が注目していた株主還元でも物足りない。今期の年間配当は120円と、株式分割を考慮すると前期に比べ400円の大幅な減配となる。配当性向は30.5%。3月公表の中期経営計画で示した配当下限100円、連結配当性向30%との方針に沿った形だが、市場では「川崎汽(9107)の今期の配当性向が40%超だったのに比べネガティブな印象」(岩井コスモの斎藤和嘉シニアアナリスト)との声が聞かれた。
9日終値から算出した郵船の24年3月期の予想配当利回りは3.8%。配当の原資となる利益剰余金は3月末に2兆189億円と、1年前と比べ45%増えた。今後、増配を発表する可能性はあるものの、現時点では5%台後半の川崎汽と商船三井(9104)に見劣りする。
自社株買いの公表がなかったのも失望売りを促した。中計では23~24年度で総額2000億円の自社株買いを実施する方針を示していた。決算会見で会社側は「24年3月期に全額実施することも選択肢に検討中」との説明にとどまった。
決算発表後の海運大手3社の株価は、明暗が分かれた。郵船と同様に株主還元が保守的と受け止められた商船三井は、4月28日の決算発表後に売りが強まり、今月8日にはおよそ3カ月ぶりの安値を付けた。一方、川崎汽は積極的な株主還元姿勢が評価され、決算発表翌日の9日に株価は9%高となり、年初来高値を更新した。松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは当面の郵船株に対し、「追加の株主還元策に期待できる一方、業績面でのピークアウト感は否めず今後は持ち高整理の売りを出す投資家が増えそう」との見方を示す。
サプライチェーン(供給網)の混乱解消と荷動き減少に伴うコンテナ船運賃の下落で、郵船は今期の5割あまりの営業減益を見込む。海運大手3社が共同出資しており、前期の郵船の経常利益に大きく貢献したコンテナ船事業会社「オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)」が今期の業績見通しを「未定」とするなど、海運市況の先行き不透明感は強い。コンテナ船運賃について郵船の山本敬志執行役員は9日の決算会見で「足元は若干上向いており、この傾向がどこまで持続するかが課題」と述べた。
新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要や物流混乱から急上昇したコンテナ船運賃が業績押し上げにつながった21年以降、郵船株は一時、5倍超となった。今後は過去3年にわたり追い風だった要因が消失する。業績への逆風が強まるなか、株主還元の強化や非海運事業の底上げでどこまで投資家をつなぎ留められるかどうか実力が問われる。