【QUICK Money World 荒木 朋】皆さんが働いている会社には持株会(従業員持株会)がありますか? 持株会を導入する企業や加入者は年々増加傾向にあり、持株会は会社が従業員のために用意する資産形成手段の1つとして注目されています。そもそも持株会とは何か? といった基本的なことから、持株会を導入するにあたっての企業側および従業員側のメリットやデメリットについて、詳しく解説していきます。
■持株会とは?
持株会(従業員持株会)とは、自分が勤めている会社の株式(自社株)を従業員が購入・保有できる制度、仕組みのことをいいます。持株会は会社が組織を作り、従業員(役員を除く)の給与や賞与から毎月一定額を天引きしてお金を集め、その拠出金を原資に自社株を共同購入するものです。従業員は拠出額に応じて配当金などを得ることができます。会社は持株会による自社株買いに際して奨励金を支給するなどして従業員による自社株買いを促します。ただし、持株会への加入は従業員の任意とされています。
持株会は、上場企業を中心に福利厚生の一環として導入されるケースが多いとされ、実際、従業員持株会制度を導入する企業や加入者は増加傾向にあります。東京証券取引所が2022年6月に公表した「2020年度 従業員持株会状況調査結果」によれば、2021年3月末時点の東証上場企業3752社のうち、86%にあたる3239社が従業員持株会制度を導入しています。持株会加入者数も増えており、2020年度の加入者数は前年度比1.5%増の293.6万人に上っています。
■持株会による会社側のメリットは?
持株会は年々増加傾向にあることが分かりましたが、持株会を組織・運用する会社にとってどのようなメリットが得られるのでしょうか。会社側のメリットには①経営の安定化につながる、②従業員のモチベーションが上がる、③事業継承対策につながる、④インサイダー取引にならない――などが挙げられます。
①経営の安定化につながる!
会社にとって持株会は、比較的長期にわたって自社株を購入・保有してくれる安定株主という存在になり得ます。従業員が安定株主になることで、自社株の外部流出を防ぐことにつながり、会社の経営が安定化しやすい要因になるというわけです。
②従業員のモチベーションが上がる!
従業員は自社株買いの拠出額に応じて配当金を得ることができます。企業の業績が上向けば配当金の増加などを通じて従業員にも利益が還元されるため、従業員の仕事に対するモチベーションアップにつながります。株主として企業全体の経営を意識して働くようになることも期待できます。
③事業継承対策につながる!
持株会が自社株を保有すると、経営陣が保有する株式比率が下がります。例えば、現経営者が亡くなった場合、自社株の引き継ぎに際して後継者に相続税が課せられます。持株会を組織することによって自社株の分散を進めておけば、課税対象の相続財産である経営者の持株比率を引き下げることで相続税対策につながるのです。
④インサイダー取引にならない!
持株会を通じた自社株買いは毎月、同じ時期に一定額の金額を買い付けるものです。そのため、上場企業の場合、仮に未公表の重要事実を知る状況にあってもインサイダー取引の扱いにはなりません。ただし、持株会から株式を引き出して売却する場合には通常の売買と同様にインサイダー規制の対象になり得ますので注意しましょう。
■持株会による従業員側のメリットは?
従業員側が得られる持株会のメリットには、①奨励金が上乗せされる、②簡単に資産形成ができる――などが挙げられます。
①奨励金が上乗せされる!
持株会を通じて自社株を購入すると、通常、会社側から奨励金支給という形で金額を上乗せしてより多くの株式を購入できるようにしてくれます。拠出金の5~10%が会社から支給されるケースが多いようです。例えば、奨励金支給が10%の場合、毎月1万円の自社株を購入すると1000円の奨励金と合わせて毎月の購入額は1万1000円になる計算です。通常の証券口座を活用した株式購入と違ってかなりお得感があるといえます。
②簡単に資産形成ができる!
通常の株式購入と違って、持株会経由では少額から自社株を購入することができることに加え、給料や賞与から一定額が自動的に株式の購入資金に回されるため、手間がかかりません。また、持株会で取得した株式でも配当が受けられるため、資産形成を簡単に行うことができます。
■持株会による会社側のデメリットは?
持株会を組織することで会社側が留意すべき点やデメリットは何があるでしょうか。①配当金を支払う必要、②従業員に議決権を行使される可能性――などが挙げられます。
①配当を出さなければならない
従業員は自社株買いの拠出額に応じて配当金を得ることができます。裏を返せば、企業は配当を出し続ける必要があります。仮に業績が悪化した場合、持株会をどう運用していくか考える必要が出てくるかもしれません。業績悪化で配当金を減額したり、無配にしたりすると、従業員のモチベーションに悪影響を及ぼす恐れもあります。
②従業員に議決権を行使される可能性がある
持株会が株式を購入することで、普通の株主と同様、持株比率に応じて様々な権利(議決権)が与えられます。1株以上の保有で株主代表訴訟の提起など、1%以上で株主総会における議案提出など、3%以上で帳簿の閲覧などの各権利を行使できるようになります。実際に経営に大きな影響を及ぼす可能性は低いと思われますが、安定した経営を実現するためには議決権行使に関する影響について事前に留意しておく必要があります。
■持株会による社員側のデメリットは?
従業員側が持株会に対して注意すべき点やデメリットは、①会社への依存度が高くなる、②好きなタイミングで売却できない――などが挙げられます。
①会社への依存度が高くなる
持株会を通じた株式購入は奨励金の付与などに加え、業績が好調であれば配当金の増加が期待できるなどのメリットがある半面、給与と金融資産の両面が会社の業績に大きく依存してしまうことにもつながります。企業の業績が悪化すれば、給与や配当金がともに下がる可能性もあります。資産運用する場合は、リスク分散の観点から全てを持株会に回さないようにすることも考慮するようにしましょう。
②好きなタイミングで売却できない
持株会経由で購入した自社株は、証券口座を通じて購入する通常の株式取引と違って好きなタイミングで売却することができません。現金化するには、まず証券会社に個人で証券口座を作り、持株会の口座から証券口座に株式を移動させた上で株式を売却するという流れになります。現金化にはある程度の時間を要することを覚えておいて下さい。また、持株会を通じて購入した株式は持株会の口座で管理しているため、株主優待は受けられない点も注意が必要です。
■覚えておきたい持株会の仕組み!
最後に持株会の基本的な仕組みを改めて簡単に整理しておきたいと思います。
持株会を通じた自社株買いは、従業員の給与や賞与から天引きされる仕組みになっています。従業員から毎月一定の金額を集めて、共同で自社株を購入します。価格が変動する金融商品を常に一定の金額で、時間を分散して定期的に買い続ける手法をドルコスト平均法といいますが、持株会も同様の手法で自社株を購入する形になります。
仮に社員のあなたが会社を退職した場合、持株会を退会する必要があります。一度退会すると再入会することはできない仕組みになっています。上場企業の場合、持株会を通じて取得した株式は退職時に個人の証券口座へ振り替えられる対応がとられます。一方、非上場企業の場合、譲渡制限が設けられていることが多いため、売却をする際には持株会に買い取ってもらう方法をとる必要があるようです。
■まとめ
持株会(従業員持株会)とは、自分が勤めている会社の株式(自社株)を従業員が購入・保有できる制度・仕組みのことをいいます。持株会への加入は任意となっていますが、上場企業を中心に福利厚生の一環として導入されるケースが多く、持株会制度を導入する企業や加入者は年々、増加傾向にあります。会社側には安定した企業経営や従業員のモチベーションアップ、従業員にとっては奨励金が付与される点や中長期の資産形成のしやすさなどといったメリットがあります。持株会に興味を持たれた方は、自身が所属する会社の同制度の有無や内容について詳しく調べてみてはいかがでしょうか。
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