【日経QUICKニュース(NQN) 寺川 秋花】ニューヨーク原油先物相場の上値の重さが目立っている。4日には石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国で構成する「OPECプラス」が協調減産の延長を決定。産油国サウジアラビアによる自主減産の表明もあって約1カ月ぶりの高値をつけたものの、上値を試す動きは鈍い。OPECプラスに向けられる懐疑の目が市場参加者をより慎重にしているようだ。
ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)では日本時間5日早朝、指標油種のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で期近7月物が一時1バレル75.06ドルと前週末の清算値から4.6%上昇した。期近物として5月上旬以来の高値をつけたのもつかの間で、買いの勢いは続かず次第に72ドル台後半まで上げ幅を縮めた。
OPECプラスは4日、閣僚級会合において協調減産の枠組みを2024年末まで延長すると決め、あわせてサウジアラビアは自主的に7月に日量100万バレルを追加減産すると表明。OPEC加盟国の一部は5月から日量116万バレルの自主減産を始めており、原油価格の下支えに向けて短期間で追加措置を講じたことになる。
金融・資本市場をみると、原油相場には追い風が吹いている。米国では3日、米政府の債務上限の効力を25年1月まで停止する法が成立し、債務不履行(デフォルト)は回避された。成立に先立つ2日には米ダウ工業株30種平均が今年最大の上げ幅を記録。リスク資産とも位置づけられる原油先物の買い材料はそろっているが「思ったより原油価格は上がっていない」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏)。
市場参加者が積極的な買いに動かない理由の1つはOPECプラスの足並みがそろいにくいことだ。国際エネルギー機関(IEA)が5月16日公表した石油市場リポートによると、ロシアの石油輸出量は4月にウクライナ侵攻後で最高となる日量830万バレルに達したという。2月に日量50万バレルの減産方針を表明していたロシアは「供給削減を完全には実施しなかった」(IEA)ことが輸出拡大につながっている。
OPECプラスの秘匿姿勢も市場参加者の疑心を生む。今回の会合ではロイター通信や米ブルームバーグ通信、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記者に対して取材許可が下りなかったと伝わった。OPECプラスが一部メディアの取材を拒否したことで情報が足りず、会合で決められた内容について「全てをそのまま信じるのが難しい」(みずほ証券の中島三養子氏)との声もある。
さらに経済環境をみても原油需給が引き締まるとは断言しにくい。長引く利上げで米国では常に景気後退懸念がくすぶるうえ、新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策の解除で回復期待が高かった中国経済は戻りが鈍い状況だ。豊トラスティ証券の大湖一樹氏は、原油先物相場について「減産の効果はあまり長く続かず、上値を追うには難しい状況だ」とみる。
IEAは5月のリポートで23年の世界の石油需要は前年から日量220万バレル増えるとみていた。OPECプラスやサウジアラビアの決定は原油需給を引き締め、価格を下支えする効果を生むだろう。だが、方針に沿って産油国が減産する保証がなく、市場に疑念が渦巻く中では原油価格に対する悲観的な見方は払拭できないようだ。