【NQNニューヨーク=稲場三奈】米国のサービスインフレに変調の兆しが現れてきた。5日発表の米サプライマネジメント協会(ISM)の非製造業景況感指数は市場予想に反して、前月から悪化した。これまで米景気の底堅さを支えてきたサービス業が腰折れすれば、雇用や賃金の悪化を通じてインフレの鈍化ペースを加速させる可能性がありそうだ。
5月のISM非製造業景況感指数は50.3と、4月の51.9から低下した。ダウ・ジョーンズ通信がまとめた市場予想(52.3)も下回った。個別項目では価格指数が前月の59.6から56.2に低下し、2020年5月以来の低水準となった。雇用指数は49.2と4月(50.8)から悪化した。
市場では「残念な内容だった」(シーバート・ウィリアムズ・シャンクのデービッド・コード氏)と、景気悪化を示唆する内容との受け止めが目立った。オックスフォード・エコノミクスは「引き続き、今年の第3四半期から第4四半期に小幅な景気後退が始まると予想する」という。ウェルズ・ファーゴは「雇用者数が伸びていても、労働市場はそれほど強くないかもしれない」と指摘。「価格も高水準を維持しているものの、伸びはかなり緩やかになっている」という。
歴史的な高インフレの一因には、労働市場の引き締まりによる賃金インフレがあるとされてきた。だが、2日発表の雇用統計では非農業部門の雇用者数が増えた一方、平均時給の伸びが鈍った。前月比の伸び率は0.3%となり、4月の改定値(0.4%増)から小幅に減速。前年同月比の伸び率(3カ月移動平均)は4.3%と、直近のピークだった22年5月の5.7%からの下降トレンドを維持した。
企業経営者からも、インフレが次第に緩やかになってきたという声が増えている。マスターカードのサチン・メーラ最高財務責任者(CFO)は「インフレは全体的に落ち着いており、制御下にあるとみている」という。外食業界でも「食品インフレは正常レベルに戻っており、賃金インフレ圧力も改善している」(ヤム・ブランズのデビッド・ギブス最高経営責任者=CEO)との声が上がる。
ISM指数発表後には米債券市場で長期金利が急低下した。発表前には3.76%まで上昇していた10年物国債利回りは一時、3.65%まで低下した。前週末には5月の雇用統計で雇用者数の伸びが市場予想を上回ったことを受け債券が売られていたが、米連邦準備理事会(FRB)が6月13~14日に開く米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを見送る観測が一段と織り込まれた格好だ。
前週にはFRBの次期副議長候補であるジェファーソン理事などFRB高官から6月の利上げ見送りを支持する発言が相次いだ。市場には「7月も政策金利を据え置く可能性がある」(BMOキャピタル・マーケッツのベン・ジェフリー氏)との見方もある。米短期金利先物の値動きから金融政策を予想する「フェドウオッチ」によると、6月に政策金利を据え置くとの予想は5日夕時点で8割弱。7月も据え置くとの予想は前日の32%程度から35%台に上昇した。
今週はFOMC参加者が対外発信を控えるブラックアウト期間にあたる。景況感や物価などを測る物差しとなるような経済指標も、FOMC初日に発表される5月の消費者物価指数(CPI)までは目立ったものがない。6月の政策金利据え置きを織り込みつつあるなかで、市場参加者は景気下振れへの警戒を再び高めているようだ。