【日経QUICKニュース(NQN) 田中俊行】日銀が、物価の先行きを見極める姿勢を強めている。消費者物価の前年比の伸びが今後プラス幅を縮小した後、再び2%に向けて拡大していくシナリオを描くものの、上下どちらにも振れるリスクがあるためだ。21~22日の金融経済懇談会に出席した2人の審議委員は、不確実性があるなかで拙速な政策修正は時期尚早だとのメッセージを発した。市場では次回7月の金融政策決定会合での政策修正は、望み薄になってきたとの声が出る。
安達誠司氏は21日に鹿児島県、野口旭氏は22日に沖縄県の金融経済懇談会で、それぞれ挨拶と記者会見に臨んだ。安達委員と野口委員は積極的な金融緩和や財政政策を求める「リフレ派」とされる。
目を引いたのが、先行きの物価や世界経済を巡る「不確実性」だ。安達委員の挨拶では、不確実性というワードが7回も登場した。植田和男総裁も16日の記者会見で「物価の先行きを巡っては、企業の価格設定や賃金引き上げの影響を含め、極めて不確実性が高い」と述べていた。植田総裁と同じ表現で、先行きの不透明感を強調した。
日銀は消費者物価の前年比の動きについて、基本的な見方として、目先は「輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰していくもとで、今年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していく」とのシナリオを置く。
そのシナリオの不確実性とは何か。安達委員は21日の記者会見で、物価のチェックポイントとして(1)今年の夏場にかけて輸入物価下落の影響が表れるか、(2)消費者物価が減速した場合は底入れの兆しが確認できるか、を挙げた。
特に1点目の輸入物価指数の前年比は、昨年9月にピークを付けた後、資源高の一服で上昇率が縮小し始め、今年4月にはマイナスとなった。安達委員は輸入物価の動きが消費者物価に波及するラグ(時差)が「9カ月」としたうえで、「(消費者物価の)統計には今年7月以降のデータに反映されてくる可能性が高い」と指摘した。
7月27~28日の決定会合までに得られる全国消費者物価指数(CPI)データは6月分まで。安達委員は「メインシナリオと違った形で物価が上振れしていくことを(7月時点で)確証をもって判断するのは難しい」と述べ、7月会合で物価の基調を理由に政策修正に踏み切ることに否定的な考えを示唆した。
野口委員も緩和継続の必要性を強調した。22日の挨拶では、今年の春季労使交渉(春闘)での賃上げ率が約30年ぶり高水準となったのを「『物価と賃金の好循環』の実現に向けた好ましい動き」と評価。その上で「今最も重要なのは、金融緩和の継続を通じて、ようやく芽生えつつあるこの賃上げのモメンタムをより強固なものとし、趨勢的なトレンドとして定着させること」と語った。海外経済を巡る不確実性もくすぶるなか、早期の政策修正で賃上げの芽を潰すわけにはいかないとの考えが透ける。
審議委員が不確実性を強調したことは、市場の政策修正の思惑にも影響を与えそうだ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美氏は「仮に7月会合までに発表される賃金・物価統計が強い結果でも7月会合で政策修正に動くとの観測は後退し、市場が織り込む修正時期は先延ばしとなりそうだ」と話す。
もっとも、より長い目でみれば、大規模緩和の出口に向けて着実に歩みを進めていることは確かだろう。野口委員は22日の挨拶で物価も賃金も上がらないことを前提とする社会通念(ノルム)について、世界的なインフレで輸入財価格が高騰したという外生的ショックを背景に「転換しつつあるように見える」と期待を込めた。会見でも「賃金と物価の好循環の実現という目標に相当近づいたのは事実だ」と述べた。
直近の物価上昇率について「考えていたよりも速いペース」(安達委員)との意見もあり、政策修正の思惑そのものが消える可能性は低い。それでも日銀が「不確実性が高い」との認識を変えない限り、市場の思惑が急激に盛り上がることは難しいかもしれない。