【日経QUICKニュース(NQN) 椎名遥香】外国為替市場でトルコの通貨リラが急落した。トルコ中央銀行は22日、エルカン新総裁のもとで初めて金融政策の決定会合を開き、6.5%という大幅な利上げを決めた。政策金利は15%となり、「マイナス金利」が続く日本から一見すると圧倒的な高さのように感じるが、金融市場はもっと大幅な利上げを待っていた。投資家の失望を招き、トルコリラ売りが膨らんだ。
■2年ぶり利上げも予想に届かず
リラは22日に1ドル=24リラ台後半まで下落し、過去最安値を更新した。1営業日で下落率は5%を超えた。日本時間23日には一時24.9リラ台を付けた。昨年末に比べると25%ほど下落している。
トルコ中銀は22日、主要政策金利を年8.5%から15%に引き上げると決めた。高インフレや通貨安に歯止めをかけるのが狙いで、声明文には「引き締めプロセスに着手する」と明記した。
利上げは2021年3月以来、2年3カ月ぶりとなる。緩和路線を修正する節目の決断となったが、市場の予想には届かなかった。ロイター通信がまとめた政策金利の市場予想は中央値で21%だった。トルコ中銀が国内エコノミストを対象とした事前の調査における予想は平均で17%台で、中銀の決定はいずれも下回った。
エルドアン大統領は5月の大統領選で再選を果たすと、金融業界出身で市場の信認も厚いシムシェキ氏を財務相にあて、米ゴールドマン・サックスなど金融機関での勤務経験があるエルカン氏を中銀総裁に任命した。「正統派」の起用により、インフレ高進を招いてきた超緩和的な金融政策が正常化に向かうとの期待は高まっていた。
■エルドアン氏の低金利志向は続く
トルコのインフレ率は中銀が目標とする5%をはるかに上回っている。昨年10月には85.5%に達した。それでも利上げを嫌うエルドアン氏の影響で、トルコ中銀は今年2月までの約1年半の間に合計10.5%も政策金利を引き下げた。インフレ率は今年5月時点で39.6%と収束にはほど遠い。22日は一気に政策金利を倍近く引き上げたとはいえ、物価を考慮した実質金利は大幅なマイナスのままだ。
過去にはエルドアン氏の利下げの意向に従わず、政策金利を据え置いたり引き上げたりした総裁が度々、任期途中で更迭された。そのたびに市場での中銀の信認は低下し、リラは下落の一途をたどってきた。エルドアン氏が今回、シムシェキ氏やエルカン氏を任命した背景には、大統領選を通過して政治的にいったん超緩和的な政策を軌道修正しやすくなったという事情があるとみられる。だが、低金利志向が変わったわけではないとの見方が多い。
SMBC日興証券の秋本翔太シニアエコノミストは「エルドアン氏によるこれまでの利下げ要求は単なる選挙パフォーマンスではなく、政治的、宗教的な信念にもとづくものであるともいえ、今後も信念を曲げてまで大幅な利上げを許容するとは考え難い」とみる。
トルコ中銀は22日公表の声明で、インフレ見通しが明確に改善するまで「必要に応じて金融引き締めを強化する」方針を盛り込んだ。ただし「漸進的なやり方で」ともしている。インフレ抑制を最優先とするかは疑わしく、エルドアン氏への配慮がにじむ。利上げを嫌うエルドアン氏の宗旨替えが期待できなければ、トルコ中銀の本格的な路線転換は難しいだろう。試金石とみられていた初会合が「物足りない」結果になり、過度な期待は禁物との雰囲気が市場で広がった。