米連邦準備理事会(FRB)が1973年に開発したドル指数。引き継いだインターコンチネンタル取引所は1999年1月以降、ユーロ、円、ポンド、カナダドル、スウェーデンクローナ、スイスフランの主要6通貨に対するドルの強さを指数化している。ユーロの構成比は57.6%と最大。2番目に大きいのは円で13.6%、ポンドの11.9%とカナダドル9.1%が続く。
ドル指数は節目として強く意識された100を割った。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のデータよると、昨年9月28日に114.78まで上昇したドル指数は7月初旬から低下が加速、14日に99.58まで下がった。米国の6月の消費者物価指数(CPI)と卸売物価指数(PPI)の伸びが鈍化、FRBの利上げサイクル終了が近いとの観測を背景に米国債利回りは低下、ドル売りを誘った。フィナンシャル・タイムズ紙は、CPIとPPIがインフレ減速を示唆しFRBの追加利上げをめぐる観測が後退したことで、ドル指数は5取引日で2.2%低下と昨年11月以来の大幅な下げを記録したと報じた。
ドル安地合いのなか、円は積極的に買い戻された。6月末に1ドル=145円台までドル高・円安が進み日本政府・日銀による介入が意識されたが、大きく反転した。日銀が今月下旬の金融政策決定会合で緩和策の修正に動くとの観測が円買いを誘い、13日に一時137円台まで円高が進んだ。フィナンシャル・タイムズ紙は、「ストラテジストによると、FRBの利上げ減速観測と同じタイミングで日銀が金融政策を修正するとの期待が高まったことが円上昇の背景だ」と伝えた。
ドル安は新興国通貨の安定に寄与した。ブルームバーグ通信は、インフレ緩和がドルを押し下げ、投資家はリスク資産を買っていると報じた。JPモルガンのG7(主要7カ国)通貨と新興国通貨のボラティリティー指数を比較するチャートを掲載し、新興国通貨のボラティリティーは主要国通貨より小さく、ドル安の恩恵を受けているとしている。
新興国通貨メキシコペソの堅調さが注目を集めている。14日の取引で1ドル=16.75ペソまでドル安・メキシコペソ高が進み、2015年12月以来の高値をつけた。メキシコ銀行(中央銀行)は今年3月まで利上げを継続、政策金利は4%から11.25%に上がった。2会合連続で金利を据え置いたが、FRBの政策金利5~5.25%との格差は大きく、メキシコペソ買いを誘っている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、(製造業の生産拠点を消費地に近づける)ニアショアリングの機運の高まりや、米国内で働くメキシコ人による本国への送金もメキシコペソの需要増に寄与していると報じた。NBC系列のサンディエゴ・ローカル局は、ドル安で米国人の購買力が低下、メキシコの観光や不動産市場に影響がでていると伝えた。
ドルの下落基調は続くか。ブルームバーグ通信は、先週の急落を受け基軸通貨ドルに転機が訪れつつあるとの見方が浮上したと伝えた。ゴールドマン・サックスのストラテジストは、米当局がインフレとの闘いが終わったと宣言すればドルは下支えを失いかねないと指摘、2024年に1ユーロ=1.15ドル、1ドル=125円までドル安が進むとみているとしている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、2022年に加速した10年におよぶドル高基調の下げへの転換を投資家はずっと待っていたと伝えた。スタンダードチャータードのアナリストはインフレ統計を「通貨のゲームチェンジャー」と表現したとしている。
ドル指数は17日の取引で一時100台を回復したものの長続きしなかった。今月25~26日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、FRBが金融政策に関する情報発信をやめる「ブラックアウト期間」に入ったため、目先は憶測が相場を動かしそうだ。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。