ロサンゼルスの海寄り西側は地中海性気候で知られる。最高気温25度前後、最低気温18度前後の典型的な夏の日が続く。ロサンゼルスでも内陸側は別世界。週末に東側の郊外に引っ越した友人は「サウナのような」暑さに衝撃を受けたという。スマートフォンに表示される気温は華氏100度(摂氏37.8度)。室内は華氏110度(摂氏43.3度)に達し、高い電気代を覚悟したと友人が話す。全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)と全米脚本家組合(WGA)がストライキ中だが、ハリウッドのスタジオ前の抗議活動はやや縮小した。「暑すぎるから」と脚本家の友人から聞いた。
世界最高気温(摂氏56.67度)の記録を持つカリフォルニア州デスバレー国立公園に観光客が押し寄せているらしい。1カ月あたり約10万人。ガーディアン紙米国版は、猛暑を体感しようと観光客が世界中から訪れていると報じた。71歳の男性が熱中症で死亡、今月初めには65歳の男性がクルマの中で亡くなったとしている。激暑が当たり前のデスバレーでも今年は異常。連日華氏120度(摂氏48.9度)を大幅に超え、夜の平均気温は華氏100度(摂氏37.8度)前後だとしている。
CBSとABCの日曜朝の報道番組のトップネタは激暑だった。CBSのアンカーは、「猛暑が2023年夏の話題を独占した」と番組をスタート。24日連続で華氏110度(摂氏43.3度)超を記録したアリゾナ州フェニックスのガレゴ市長は、「猛暑が衰える兆候はない」とインタビューに答えた。カリフォルニア州パームスプリングスは9日連続で華氏115度(摂氏46.1度)を記録、21日は過去最高の華氏123度(摂氏50.6度)に達した。「日中に外出するのは危険すぎる」とABCの記者が現地から伝えた。
経済への悪影響を懸念する声が広がりつつある。CNNは、ロックフェラー基金によると、猛暑で生産性が低下し米経済に年間1000億ドル(約14兆円)の損失になると解説した。ムーディーズ・アナリティックスは、猛暑が2100年までに世界の国内総生産(GDP)を17.6%押し下げるリスクがあると警告したとしている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、夏の気温が華氏で1度上昇するごとに、米国のGDPを0.15~0.25%押し下げると試算されていると報じた。既に小規模企業が打撃を受けているとしている。
米国の報道によると、全米の熱中症死者は23日時点で確認されただけで18人。熱中症が疑われる死亡例は10件以上あり、勤務中に死亡した例もある。ニューヨーク・タイムズ紙は、猛暑対策が労使交渉の焦点になったと報じた。南カリフォルニアのアマゾンの配達員グループが猛暑対策の導入を訴え、UPSの労働組合は配達車のエアコン設置を勝ち取ったとしている。バイデン政権は、猛暑から労働者を守るルール導入を検討中だと伝えた。
経済だけではなく生命に危険な猛暑だが、2024年大統領選の主要な争点になっていない。米議会専門紙ザ・ヒルは、共和党候補者選びに出馬した主な11人は誰も異常気象を真剣に取り上げていないと報じた。民主党候補選びに出馬したバイデン大統領は気候変動問題への取り組みを強調するが、支持率は過去最低水準。7月13~17日に実施されたクイニピアック大学の全米世論調査の支持率は38%、プレミスの最新調査の支持率はわずか28%にとどまった。USAトゥデイ紙によると、23日時点で全米7500万人に猛暑警戒アラートが出された。科学者によると、約12万5000年ぶりの猛暑は8月も続く見通しとしている。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。