【日経QUICKニュース(NQN) 寺川秋花】財務省が12日実施した5年債入札は投資家から一定の需要を集め、無難に通過した。高めの金利水準や需給逼迫感が、投資家の需要を後押しした。だが市場では日銀の金融政策修正観測がくすぶり、金利の先高観(債券価格の先安観)は根強い。安心して国内債に投資するといった状況ではないようで、投資家は慎重姿勢を崩していない。
5年債入札では最低落札価格が100円02銭と、日経QUICKニュースがまとめた市場予想(100円00銭)を上回った。小さいほど好調な入札とされる平均落札価格と最低落札価格の差(テール)は2銭と、前回入札(8月15日、3銭)から縮小。事前には需要が集まるか警戒した見方が出ていただけに、市場では「無難」(国内証券の債券ストラテジスト)だったと安堵感が広がった。
足元で5年債の利回り水準が切り上がっていたことが、投資家の関心を集めた。12日午前の国内債券市場で、きょうまで新発の5年160回債は一時0.290%と1月以来の水準に上昇した。
QUICKがまとめる債券市場の月次調査によると、直近8月調査で市場参加者が想定する6カ月後(2024年2月末時点)の5年債利回りの水準は、中央値で0.300%だった。こうした見方を踏まえると、足元の5年債の実勢利回りは「投資家目線にかなう」(SMBC日興証券の小路薫氏)水準だったという。
入札に向けて5年債の需給が引き締まっていたのも、投資家の背中を押した。市場関係者によると、現金担保付き債券貸借(レポ)市場で銘柄を指定したスペシャル取引(SC)で、きょうまで新発の5年160回債の金利は11日、それまでのマイナス0.2~マイナス0.1%台からマイナス0.4~マイナス0.3%程度に低下した。SC取引でのレポ金利は、現金の借り手が払う金利から債券の借り手が払う品貸し料を差し引いて決まる。レポ金利の低さは品貸し料が高騰している様子を映しているといえる。
日銀が11日、幅広い担保を裏付けとして資金を供給する「共通担保資金供給オペ(公開市場操作)」で、期間5年のオペを14日に通知すると発表したのも入札を支える一因となったようだ。同オペは、日銀から低金利で資金を借り入れた金融機関に、国債や翌日物金利スワップ(OIS)などとの裁定取引の機会を提供することになるためだ。
市場では、日銀による政策修正への思惑が強まっている。21~22日の金融政策決定会合で、すぐに何かが起きるとは想定していないながらも「政策修正の時期を前倒しにすると身構え、警戒感を解くわけにもいかないと話す顧客が多い」(国内証券)との声も出る。ある大手銀行の運用担当者も「国内債投資には慎重にならざるを得ない」と話していた。