ドイツ銀行の為替アナリストのレポートが注目を集めた。X(旧ツイッター)に投稿された米ブルームバーグ通信の記事を100万人超がみた。アナリストは「利回りや対外収支といった円相場を動かしている要因から、円はトルコリラやアルゼンチンペソと同じ部類に属する」と指摘。「円防衛の介入は良くて無力、最悪の場合は状況を悪化させる可能性がある」と主張した。トルコのホテルはユーロ建て。アルゼンチンの友人はペソの収入があると直ぐに全額ドルに換える。日本がそうなると想像できないが、円を世界で最も不安定な通貨に準えるのは興味深い。
3日までの1週間の円は上下に振れた。日銀はイールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟化を発表。前日深夜の日経新聞の報道を受けた期待の高まりと、財務省が10月に為替介入をしなかったことが判明したことが影響し円下落が加速した。円相場は31日のニューヨーク市場で一時1ドル=151円74銭と2022年10月以来の安値をつけた。
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は社説で、日銀はYCCという怪物はまだ死んでいないと発表したと伝えた。植田総裁は曖昧な調整で状況をさらに悪化させ、「念のための上限」を発表するという7月に犯したミスを繰り返したとしている。悪い政策はもはや維持できないが、政策を正常に戻すことも困難になったと主張した。英フィナンシャル・タイムズ紙は、日銀が利回り抑制策をわずかしか修正せず、円の対ドル相場は4月以降で最大の1日の下げ幅を記録したと報じた。円が152~155円の間の水準にさらに下落すれば、日本当局が通貨防衛の介入に動くとアナリストは予想したとしている。
日銀会合の翌日。米連邦準備理事会(FRB)が米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を5.25~5.50%に予想通り据え置いた。声明で景気認識をやや上方修正。ウォール・ストリート・ジャーナルとフィナンシャル・タイムズはいずれも「追加利上げの余地を残した」との見出しで報じたが、市場は「引き締めサイクル終了」と受け止めた。声明のハト派的な部分とパウエル議長の慎重な発言を材料視。ゴールドマン・サックスのエコノミストは、CNBCのインタビューで、「利上げは終了した」との見方を示した。市場が織り込む利上げ確率を示す「フェドウォッチ」は、FRBが来年5月まで金利を現行水準で維持、6月から来年末までに3回の利下げがある可能性を示唆した。FOMC前の利下げ予想時期は7月だった。
FOMC後に円は値を戻したものの、上げ幅は小幅に留まった。バンク・オブ・アメリカ証券のアナリストは、31日付けのレポートで、日本の長期金利は1.2%に上昇すると予想するが、円相場の方向は米国の金利動向が決める可能性があるとコメント。来年第1四半期(1~3月)に円相場は155円でピークを打つとみている。円安地合いが当面続くとの見方は少なくない。
3日発表の10月の米雇用統計は市場予想より弱く、米国債利回りは一段低下した。特に10年と30年の長期国債が買われ、利回りは大幅低下。ドル売りを誘った。3日の取引で主要通貨に対するドル指数(DXY)は1%低下。週間ベースでは約1.4%低下と、7月以来の大きな落ち込みだった。円相場は149円台前半に上昇したものの、1月前半の127円台と比べると円はまだまだ安い水準だ。
オランダ金融大手のINGは、3日付けレポートで、11月と12月はドル安基調になる傾向があるものの、今年は堅調な米経済とFRBの引き締め策を背景にドル高基調が年末まで続く可能性があるとコメントした。円相場は150円から遠くない水準で年末を迎えると予想。類似したシナリオを描く市場関係者は少なくない。日本の政策とファンダメンタルズが円売りに寄与との指摘もある。円が最弱通貨グループを抜け出すのはまだ先かもしれない。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。