暗号資産(仮想通貨)をめぐる動きが活発だ。時価総額が最大のビットコインは2023年を通じてほぼ右肩上がりで上昇した。昨年9月以降に伸びが加速、4カ月間の上昇率は67%。2023年の上昇率は160%を超えた。21年11月に6万7542ドルまで買われたビットコインは、大手交換所FTXトレーディングの破綻などが影響した「仮想通貨の冬」で75%を超す価値を失った。ビットコインがけん引する形で幅広い仮想通貨が上昇基調に戻った。
仮想通貨反発の背景は主に2つ。まずビットコインの現物ETF(上場投資信託)への期待。先物ETFは既にあるが、レバレッジ型で価格変動リスクが大きい。CNBCによると、世界最大級の資産運用会社ブラックロックやフィデリティを含む13社がビットコイン現物ETFの上場申請書を提出した。米証券取引委員会(SEC)は、年末から年始にかけて申請企業のほか、ニューヨーク証券取引所やナスダックなどと活発に協議、承認は近いとみられている。
ビットコイン現物ETFをめぐる報道は急増。FOXビジネスは、ブラックロックはSECが10日に承認すると期待していると伝えた。ブルームバーグ通信は6日、ETF申請企業は承認への主要なハードルをクリア、順調にいけば数日以内に承認されると報じた。JPモルガンやゴールドマン・サックスは、ビットコイン現物ETFの「指定参加者」になる方向でブラックロックや米運用会社グレースケール・インベストメンツと交渉しているとしている。英フィナンシャル・タイムズ紙は、米当局が販売を認めるか示唆していないにもかかわらず、ブラックロックや米アーク・インベストメント・マネジメントなどがビットコイン現物ETFの手数料を引き下げるため申請書類を修正、顧客獲得戦争を展開していると報じた。
米ニュースサイトのアクシオスは、ビットコインETFに資産運用関連会社などが熱狂していると解説した。現物ETFは投資家に理解しやすく、購入が容易になるため、プライベートバンカー、投資アドバイザー、ウェルスマネジメント担当らが巨額の民間資産のわずかな部分をビットコインに分散投資するよう勧める可能性があるとしている。CNBCは、SECが承認すれば、仮想通貨交換所を使わない幅広い投資家が参加する可能性が高いと伝えた。
仮想通貨相場を押し上げる要因のもう1つはビットコインの半減期だ。米国最大の仮想通貨交換所コインベースによると、ビットコインの希少性を保ちインフレに強い資産にするため、2040年ごろまで4年ごとに採掘(新規発行と取引承認)が半分に減ること。過去の半減期は中期的な上昇のきっかけとなった。ミレニアル世代の顧客を多く抱えるボーン・ファイド・ウェルスの創業者ボーンパース氏は、CNBCのインタビューで、仮想通貨の上昇要因の60%はビットコイン現物ETFへの期待、20%は半減期で、残り20%は経済環境が寄与したものだと語った。
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、SECがビットコイン現物ETF上場を仮に承認しても、「噂で買って事実で売る」投資行動が起こるとストラテジストの一部は予想していると報じた。資産運用会社が口座を開設する必要があり、オペレーション開始に時間がかかりそうだとしている。ビットコインの半減期は今年4月17日ごろと予想されており、ブラックロックは時価総額2位のイーサリアムの現物ETF上場を正式申請した。ビットコインのテレビCMの放送頻度は目立って増えた。高リスクの仮想通貨をめぐる熱狂は続きそうだ。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。