筆者が米国に来て7回目の大統領選挙が11月5日に実施される。共和党のジョージ・W・ブッシュ候補と民主党のゴア候補の決着が最高裁の判断に委ねられた2000年。「チェンジ」旋風でオバマ氏が初の黒人大統領に選ばれた2008年。トランプ候補がクリントン候補に接戦のすえ勝利を収めた2016年。過去6回のどの選挙と比べても、今年の選挙は盛り上がりに欠ける。米国人の友人と会っても話題にのぼらない。選挙関連の報道は増えたものの、グーグルトレンドによると検索は増えていない。
共和党指名争いの初戦となる中西部アイオワ州の党員集会が15日に実施される。15日は厳しい冷え込みとなり、摂氏マイナス20度を下回る予報。歴史的な激寒で投票率は下がる可能性はあるが、結果は予想できる。党員集会前の最後の米NBCニュースによるアイオワ州の世論調査は、トランプ前大統領の支持率が48%で首位。ヘイリー元国連大使が20%で続き、当初期待されたフロリダ州のデサンティス知事は16%にとどまった。反トランプを鮮明にしていたクリスティー前ニュージャージー州知事の撤退でヘイリー氏に追い風が吹いているが、トランプ氏圧倒的リードの構図は変わらない。
米ニューヨーク・タイムズ紙は、アイオワ州の投票所に、恐怖、不安、絶望的なムードが漂っていると報じた。伝統的に大統領選は未来への期待が話題になるが、今年は投票前から既に非常に暗い雰囲気になっているとしている。
候補者選びのプロセスは10カ月近くにわたる長丁場だが、既に決まっていると幅広くみられている。共和党候補はトランプ氏。民主党はほぼ無風でバイデン大統領に決まる公算。選挙人の人数(538)が名前の由来であるABCニュース傘下の世論調査分析サイト、ファイブ・サーティー・エイトによると、年初から13日までに発表された大統領選に関する16の世論調査のバイデン氏とトランプ氏の支持率は拮抗。ややトランプ氏が優勢にみえるが僅差だ。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の昨年12月調査では、トランプ氏の支持率がバイデン氏を4ポイントリードしている。訴訟問題を抱えるトランプ氏の返り咲きの確率は低くない。
ゴールドマン・サックスのアナリストは12日付メモで、「民主党と共和党の候補者が確実になった後も、大統領選の結果は不透明」とコメントした。インフレ率の伸びが予想ほど速く鈍化しない場合はバイデン政権への支持率に打撃となる可能性があるとしている。米ワシントン・ポスト紙は、バイデン政権下で経済は改善したものの、有権者の多くはバイデン氏の功績と考えていないと報じた。ロイター通信は、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ期待を背景にした株式相場の底堅さはすぐに変わらないと予想されるが、大統領選で分断が深刻化する場合は株式市場に予期せぬ影響を及ぼす恐れがあると伝えた。
国際情勢分析で定評がある米調査会社ユーラシア・グループは、8日発表の2024年「10大リスク・リポート」で「米国の分断」をリスクのトップにあげた。「大統領選で分断が深刻化し過去150年で経験したことがないほど米国の民主主義が試される。世界で米国の信用が低下する恐れがある」と予測した。米ワシントン・ポスト紙は、160年前に国家を分断した「南北戦争(American Civil War)」について異例に大統領候補が言及しはじめたと報じた。
アイオワ州に続いて1月23日に東部ニューハンプシャー州の共和党予備選、2月3日に南部サウスカロライナ州で民主党予備選が実施される。USバンク・ウェルス・マネジメントのアナリストは、選挙はまだ何カ月も先で、選挙結果より経済成長、金利、インフレが引き続き株式市場を動かす重要な材料になると指摘した。当面の金融市場への影響は限定的との指摘は少なくないが、年後半以降に相場を動かす可能性はありそう。大統領選3カ月前から市場のボラティリティーが高まるアノマリー(経験則)がある。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。