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景気って何だろう? 株価との関係は?(木村貴の経済の法則!)

記事公開日 2024/3/1 15:00 最終更新日 2024/3/1 16:56 株式相場 中央銀行 景気 木村貴 金融相場 木村貴の経済の法則! 業績相場

【QUICK 解説委員長 木村貴】「ソフトランディング(軟着陸)」という言葉をよく目にする。景気が多少減速しても深刻なリセッション(後退)には陥らない、という意味だ。株式市場では買い材料として注目される。

株式相場には4つの局面

株式相場には4つの局面があり、それらを順番に繰り返すといわれる(図1)。まず「金融相場」とは、景気の悪化を食い止めるために中央銀行(日本の場合は日銀)が金融緩和を始め、株価が上昇を始める局面だ。悪化していた景気と企業業績は下げ止まる。景気と株式相場の局面

次に「業績相場」とは、景気と企業業績が拡大し、それを支えに株価が引き続き上昇する局面だ。マクロ要因よりも個別企業の業績などのミクロ要因で株が買われることが多いとされる。景気と企業業績の拡大を受け、金融緩和は通常、終了に向かう。

業績相場が一定の段階を過ぎると、金融引き締めを受けて株価が下落する局面に入る。これを「逆金融相場」という。景気が過熱してインフレになることを防ぐため、中央銀行が金融引き締めに乗り出す。これを受けて景気と企業業績は頭打ちとなる。

金融引き締めが続くと、「逆業績相場」の局面に入る。景気と企業業績がさらに悪化し、株価が一段と下がる。こうした中で、景気が悪くなっても業績が悪化しにくい生活必需品や医薬品、インフラといった「ディフェンシブ株」が相対的に買われやすくなる。

これら4つの局面は互いに区別がつきにくい場合があるし、必ずこの順番どおりに変化するとも限らない。それでも大まかな違いを頭に入れておけば、投資判断の参考になるだろう。

米経済のソフトランディングが株の買い材料となるのは、米連邦準備理事会(FRB)が金融緩和を始めることで、金融相場に入り、株価が上昇するとの見方からだ。次に業績相場に進み、株価が一段高になることへの期待もありそうだ。

景気変動はなぜ起こる?

景気はこのように株式相場と密接な関係にあるが、そもそもなぜ、好景気や不景気という現象は起こるのだろうか。

景気とは、経済活動の活発さを指す言葉だ。「景気が良い」とは、企業のつくったモノやサービスの売れ行きが伸びて収益が増え、働く人々の収入も増えて消費も拡大していく状態で、「好景気」「好況」ともいう。一方、「景気が悪い」とは企業のモノやサービスが売れなくて収益が減り、消費が減っていく状態で、「不景気」「不況」ともいう。

経済活動が活発になったり、衰えたりして、好景気と不景気が波のように繰り返すことを「景気変動(経済変動)」という。「景気循環(経済循環)」とも呼ばれる。細かくいうと、好況→後退(または恐慌)→不況→回復→好況という局面をたどる(図2)。

景気の波

各局面の特徴をいうと、好況のときには生産も売り上げも伸びるから、国民所得は増え、企業の倒産や失業は少ない。景気の後退期には、生産は減退し、企業の倒産や失業が増える。この後退が急激に起こって経済が混乱するのが恐慌だ。後退後の沈滞した経済状態が不況で、これはやがて回復に向かい、再び好況がやってくる。ここまでが一つの循環になる。

それでは、景気変動はなぜ起こるのだろうか。じつは「経済学者の間でも、一致した意見はない」(経済学者の蔵研也氏)。

主要な学説(図3)のうち、もっともよく知られるのは、英経済学者ケインズのものだろう。景気変動が起こる究極の原因は、アニマル・スピリット(血気)だという。たとえば日本の戦後の自動車ブームのように、企業家がどんどん投資をして、工場をつくる。ケインズによれば、このような投資行動に関する意欲の変化は、アニマル・スピリットと呼ぶ動物的な直感に基づく。

経済変動の原因についての主要学説

このケインズ経済学の説に対しては、批判もある。「多くの企業家が突然一斉に投資をしたいと思うようになるとは、考えにくい」という、もっともな意見だ。

ケインズ説に対し、新古典派(経済の金融的な側面を重視するマネタリストを含む)の経済学者はさまざまな異論を唱えたが、最も有力な説は、景気変動の原因は、生産性の変動にあるというものだ。たとえば、何か画期的なイノベーションが起こり、生産性が急速に向上したり、逆に石油危機のような負のショックが起こり、生産性が急速に悪化したりする。景気変動の原因はこうした生産性ショックだというわけだ。

お金の量の増減が原因

これらの学説とは異なる、第3の説を唱える勢力がある。この連載でたびたび取り上げてきた、オーストリア学派だ。日本の経済学者にはほとんどおらず、米国でも少数派だが、現実の経済を説明するうえで説得力があるとして、プロの投資家から注目される。

オーストリア学派の考えは、ケインズ経済学や新古典派とは「まったく違う」(蔵氏)。景気変動の原因は、銀行信用(お金)の量の変化だと説く。お金の量が膨張したり収縮したりすることによって、好景気や不景気が生じるというのだ。

どういうことか。景気変動を理解するうえで、心にとめておかなければならないのは、個々の企業・業界の浮き沈みとの違いだ。ビジネスの世界で企業ごと、業界ごとの浮き沈みはつねに存在する。これは市場経済では当たり前の現象であり、それらを説明するのにことさら特別な理論はいらないし、問題視する必要もない。

しかし、景気変動は違う。特定の業界ではなく、世の中全体を熱狂的な好況が支配したかと思うと、厳しい不況が襲う。そこが問題なのだ。

では一体、何が景気変動を引き起こすのだろうか。特定の商品の需要と供給は、せいぜい一部の業界のビジネスに影響するにすぎない。経済全体に影響を及ぼすとしたら、あらゆる取引の仲立ちとなるものがかかわっていなければならない。つまり、お金だ。お金には現金だけでなく、銀行預金も含まれる。

現代の経済で、お金の量を増やしたり減らしたりするのは誰だろう。中央銀行(日本では日銀)だ。現金(お札)は中央銀行が直接発行するし、銀行預金も金融政策を通じて間接的にコントロールしている。

お金の量は金利に影響する。中央銀行がお金の量を増やすと、金利は市場で自然に決まる水準よりも低くなる。すると、それまでの高い金利では借り入れに慎重だった企業が借り入れを増やし、そのお金で資材を購入し、人材を雇用し、事業を拡大する。これが好景気だ。

ところが資材や人材は、金利が中央銀行によって人為的に引き下げられる前よりも増えたわけではないから、やがて足りなくなり、物価や賃金が上昇する。その結果、新たな事業に乗り出した企業は、事業の採算が悪化し、最悪の場合、倒産に追い込まれる。これが景気後退であり、恐慌だ。

金利は単にお金を借りる際のコストというだけではなく、経済全体の状態を示すシグナルの役目を果たす。自然な状態で金利が低い場合、人々が目先の消費を抑え、節約して貯蓄を増やし、その分、目先使われない物や労働力が十分にあることを示す。逆に金利が高い場合、物や労働力がそれほど十分にないことを意味する。

ところが中央銀行が人為的にお金の量を増やし、金利を引き下げると、経済の実態を映さない、誤ったシグナルを送ることになる。誤った金利のシグナルを信じて企業が誤った投資を増やし、行き詰まって破綻する。一言でいえば、これが景気変動だ。

つまりオーストリア学派の理論によれば、経済を安定させるために行われているはずの中央銀行による金融政策こそが、景気変動を生み出し、経済を不安定にしている元凶ということになる。学校の教科書で、金融政策とは重要な経済政策の一つだと教えられた普通の人々にとって、にわかに信じられない主張かもしれない。

しかしこの理論によって、景気の「謎」が解き明かされる。投資に生かすヒントを含め、次回はさらに掘り下げてみよう。

著者名

木村貴(QUICK解説委員長)

日本経済新聞社で記者として主に証券・金融市場を取材した。日経QUICKニュース(NQN)、スイスのチューリヒ支局長、日経会社情報編集長、スタートアップイベント事務局などを経て、QUICK入社。2024年1月から現職。業務のかたわら、投資のプロに注目される「オーストリア学派経済学」を学ぶ。著書に「反資本主義が日本を滅ぼす」「教養としての近代経済史」ほか。


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