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PBR1倍割れで自社株買いをするとPBRは下がるのか(数式編)(フィデリティ投信 重見吉徳氏)

記事公開日 2024/3/13 16:00 最終更新日 2024/3/13 16:33 PBR 政策金利 フィデリティ

ご存じのとおり、東証は昨年3月、上場企業に対して「PBR1倍割れ」の改善要請を出しました。これを受け、筆者は昨年5月に、いくつかのエントリーを書きました。

今回、それらを書き直したいと思ったのですが、それにあたり、先に「PBR1倍割れで自社株買いを実施すると、かえってPBRが低下する」という話について検証しておく必要があると感じましたので、ここに考えてみます。

前回は数値例で、今回は数式編です。

まずは事前準備として、純資産総額や1株純資産などを式で表現しておきます。

自社株前の株価をP0

「自社株買い後の1株純資産」の性質

そして、本題に入る前に、【前の図】の最後に導出した「自社株買い後の1株純資産(BPS)」について、【次の図】でその性質を確認しておきます(→最後に重要になってきます)。

ここで、先の最後の式①について少し考える。

すなわち、自社株買い後の1株純資産(BPS)は、自社株買いを実施する前のPBRの水準しだいで「上昇するか、低下するか、変わらないか」が決まります。

「PBR1倍割れで自社株買いをすると、かえってPBRが低下する」との主張に存在する仮定

「PBR1倍割れで自社株買いをすると、かえってPBRが低下する」との主張を確認すると、その背景には「PBR1倍割れ時の自社株買い後も株価は一定」(=「自社株買いの分だけ時価総額は減少する」)との仮定が置かれています。

そこで、【次の2つの図】では、そのとおりに「株価一定」の仮定を置いて、PBR1倍割れのときのPBRの変化を計算してみます。

自社株買い後の時価総額は

では、P1=P0と仮定した場合

すなわち、「株価一定」の仮定を置いて、PBR1倍割れのとき自社株買いを行うと、PBRは低下することが示せました。

しかし、「PBR1倍割れで自社株買いを行うときに株価は一定である」との仮定は正しいのでしょうか。

【次の図】にまとめるまでもなく「PBR=ROE×要求収益率の逆数」であることから、(自社株買いによって要求収益率やリスク・プレミアムが上昇しないかぎりor要求収益率やリスク・プレミアムが高まるような「無茶な自社株買い」が実施されないかぎり)「PBRが低下する自社株買いとは、ROEが低下する自社株買い」です。

「自社株買いによってROEが低下する」ということは、「自社株買い前の資産全体のROA(やROE)」よりも、わざわざROA(やROE)が高い資産や事業を選択・売却して自社株買いを実施しているということにほかなりません。

合理的な経営者ならば、「自社株買い前の資産全体のROA」よりも、ROAが低い資産や事業を選択・売却して自社株買いを実施するでしょう。

ただし、PBR1=

PBRの水準に関わらず、合理的な自社株買いはPBRを上昇させる。

あらためて、「自社株買いによってPBRが上昇する条件」を考えると、それは「ROEが上昇する自社株買い」です。

逆に言えば、【次の図】でも確認するように、「ROEが上昇する自社株買い」であれば、「当初のPBRの水準に関わらず、PBRは上昇」します。

では、自社株買いによって、PBRが上昇する条件を考えよう。

 

(PBRの水準に関わらず、ROEが上昇する自社株買いならば)PBRは上昇するとして、EPSや株価はどうか。

以上をまとめると、「PBRの水準に関わらず、ROEが上昇する自社株買いならば、PBRは上昇する」ということです。

では、1株利益や(1株利益がわかれば決まる)株価自体はどうでしょうか。

【次の図】で示すとおり、そして、直観とはいくぶん異なることに、

  1. PBRが1倍以下のときに自社株買いを実施すると、PBRやROEとともに、EPSや株価も上昇する、
  2. 他方で、PBRが1倍超のときに自社株買いを実施すると、PBRやROEは上昇するものの、EPSや株価は必ずしも上昇するわけではない、

ことが確認されます。

前説までは、PBRについて考えたが、最後に、EPSと株価について考える。

上記1については、【次の図】において、PBR1倍割れで、わずかでもROEが高まる自社株買いが実施されるときには(→ROE:5.0%→5.001%)、PBRに加え、1株利益や株価が上昇することが確認できます。

PBR1倍以下で、ROEを高める自社株買いを実施するときは

上記2については、【次の図】において、PBR1倍超で、ROEが高まる自社株買いが実施されるときには、PBRは上昇するものの、1株利益や株価が低下することが確認できます。

ただし、PBR1=


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著者名

フィデリティ・インスティテュート マクロストラテジスト 重見 吉徳

20208月、フィデリティ投信入社。農林中央金庫や野村アセットマネジメントにて外国債券の運用に従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年に J.P.モルガン・アセット・マネジメントに入社。個人投資家や金融機関、機関投資家向けに経済や金融市場の情報提供を担う。昭和の歌が好き(演歌・洋楽を含む)。


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