ロサンゼルス市内の自宅周辺を自転車で回って気がついた。「オープンハウス(内覧会)」の看板がみあたらない。週末なのに。翌日曜日に別ルートを歩き1つだけみつけた。米国では夏から新学期がはじまる8月末までに引っ越しを希望する人が多く、3月から6月ごろまでは住宅売買が1年で最も盛んになる。内覧会を「はしご」する購入希望者は多く、昨年までは近所に不動産会社の看板が並んだ。状況は一変した。理由は明らか。高金利を背景に、低い固定金利の住宅ローンで購入した米国人の多くは住宅を買い替えるインセンティブがない。物件の供給は非常に少なく、住宅在庫は歴史的低水準。しかも価格は手の届かない水準に高騰した。
住宅情報のリアルター・ドットコムによると、ロサンゼルスの2月時点の住宅価格中央値は97万ドル(約1億4500万円)。前年同月比で5.3%上昇した。日本経済新聞電子版が「億ション時代」の記事を掲載したが、米国では価格高騰に加え、住宅ローン金利が日本より大幅に高い。ダウ・ジョーンズの15日時点のデータによると、米国で最も人気のある30年物固定金利は7.19%。3年前は3.86%だった。ロサンゼルス・タイムズ紙は、100万ドルの住宅を20%のダウンペイメント(頭金)で購入する場合、月の支払額は6492ドル(約96万7300円)に達すると報じた。ロサンゼルスで中央値価格の住宅を購入する余裕のある世帯は11%しかいないとしている。
不動産情報サイトのジローは、米国で無理なく住宅を購入するために必要な年収は2020年以降に80%急増したと2月29日付メモで伝えた。住宅購入に必要な年収の全米中央値は10万6000ドル(約1580万円)、20年前と比べ4万7000ドル(約700万円)増えたとしている。いま話題のエヌビディアの本社がある北カリフォルニアのサンノゼの住宅購入に必要な年収は45万4296ドル(約6770万円)。必要年収高額ランキングの首位で、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴとカリフォルニア州の都市が続いた。ニューヨーク市は21万3615ドル(約3180万円)だった。米国の一般家庭のマイホームの夢が崩れたとブルームバーグ通信は伝えた。
米国の住宅購入環境が今夏以降に少しだけ改善する兆しはある。全米不動産協会(NAR)は15日、住宅売買の手数料ルールをめぐる訴訟で和解した。住宅売買手数料は取引価格の5~6%。買い手と売り手のブローカー(仲介業者)が折半するのが一般的。和解により、買い手と売り手の両方が手数料の引き下げ圧力を強めると予想される。合意内容は7月に適用。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、手数料が引き下げられ、40万ドル(約5960万円)の住宅を購入する場合は数千ドルを節約できる可能性があると解説した。
諸費用は下がる見通しだが、住宅購入者の負担を押し上げる最大要因である金利は米連邦準備理事会(FRB)が鍵を握る。米国の住宅ローン金利はFRBの金融政策の影響を受ける米10年物国債利回りにゆるやかに連動している。FRBは年内に利下げサイクルに入る可能性がある。金利負担はいずれ軽減される見通しだが、ローンで住宅購入を真剣に検討する金利水準まで下がるのはかなり先になりそうだ。米国人の多くがマイホームの夢を実現する日はいつになるのか。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。