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住宅関連株のテーマ「YIMBY」とは何か 開発の支持運動、住宅供給の促進で潮流に【米株キーワード】

記事公開日 2024/4/17 08:00 最終更新日 2024/4/19 08:51 米経済 米住宅着工 米国 経済効果 米株 米株キーワード NQNセレクト

【NQNニューヨーク=川上純平】いつかはマイホームが欲しい――。米国民にとって、身近な夢の実現が難しくなっている。近年は住宅価格が賃金を上回る速度で上昇し、社会問題となっている。住宅の不足が大きな要因で、解消に向けて「住宅を増やせ」と主張する運動が広がりをみせている。

NIMBYからYINBYへ、住宅増へ高まる社会的圧力

「Yes in my backyard(イエス・イン・マイ・バックヤード)」。日本語に訳すと、「うちの裏庭どうぞ」という意味を持つ言葉。この頭文字を取った「YIMBY(インビー)」が住宅建設を促す取り組みで頻繁に使われている。

この支持者は、住宅価格の上昇を抑え住みやすい街を実現するためには供給を増やすことが最善だと考える。住宅高騰で資産を膨らませる保有者の陰には、住宅を購入できない多くの人々の犠牲があると問題視する。政治的には、リベラル層を中心にこの立場を取ることが多いとされてきた。

この反対の意味を持つのが「Not in my backyard(ノット・イン・マイ・バックヤード)」。日本でも「NIMBY(ニンビー)」として知られ、ショッピングモールや工場といった大型施設の建設に異議をとなえる時に使う。住宅も、人口の流入を招いて地域の混雑のほか、物価や家賃の上昇をもたらしうる。もともと住んでいた人は転居を余儀なくされるなどかえって居住環境が悪化すると主張する。

住宅の建設を巡る意見の相違は時に政治的な対立にも発展するが、近年の著しい住宅高騰はYIMBY運動に勢いを与えているようだ。住宅不足という問題意識を共有した政治家や支持者が党の違いを乗り越えて協力し合う例もある。

YIMBY運動が勢いを持つのは米国の住宅市場を取り巻く環境変化が背景にある。米商務省によれば、新築の住宅価格は24年2月時点で40万500ドル(中央値)。22年に比べやや落ち着いたとはいえ、10年比で81%、20年比では19%の値上がりだ。

一方、米労働省のデータでは、24年3月時点での平均時給は10年12月比で52%、20年12月比で16%の伸びにとどまる。住宅価格が賃金を上回って上がり、住宅ローン金利の上昇もあって新築の購入をためらう米国人が増えている。

投資メディアのインベストペディアは23年に最も投資家の関心を集めた言葉として「銀行破綻」や「人工知能(AI)」などと並んで「アメリカンドリーム」を選出した。同サイトは、高インフレや金利高を背景に「多くの米国人にとって、貯蓄し、家を買い、子どもを育て、資産を築くことは手の届かないものになりつつある」と記している。

■住宅価格の一段安、目先は見込みにくく

足元で住宅の建設は増えている。2月の住宅着工件数は152万1000戸(年換算)と前月比で11%増えた。増加率は23年5月以来の大きさだ。今年中に米連邦準備理事会(FRB)の利下げを見込む市場関係者が多く、ローン金利が下がることへの期待が押し上げた。ただ、市場では「手ごろな価格の住宅が大きく増えるまでにはまだ時間がかかる」(バンク・オブ・アメリカ)との指摘がある。

米住宅着工件数の推移(23年1月以降)

対象 年換算(万戸) 前月比
24年2月 152.1 10.70%
24年1月 137.4 ▲12.30%
23年12月 156.6 3.60%
23年11月 151.2 9.90%
23年10月 137.6 1.50%
23年9月 135.6 3.90%
23年8月 130.5 ▲10.10%
23年7月 145.1 2.30%
23年6月 141.8 ▲10.40%
23年5月 158.3 17.40%
23年4月 134.8 ▲2.30%
23年3月 138.0 ▲3.90%
23年2月 143.6 7.20%
23年1月 134.0 ▲1.30%

パウエルFRB議長は3月の議会証言で、住宅価格の上昇について「金利が正常化しても根本的な住宅不足の問題は残る」と述べた。住宅の供給が足りない状況が続くことで「価格に上昇圧力を及ぼすだろう」と話し、問題解決のカギは金利ではなく供給増にあるとの認識を示した。

■住宅関連株は好調

住宅関連株は金利動向に敏感なセクターとみられてきた。金利の上昇は株安の要因となりやすいが、高い価格と、供給増への社会的な圧力がかかっている状況は住宅関連株に追い風だ。上場投資信託(ETF)の「iシェアーズ 米国住宅建設ETF」は昨年に7割高となり、今年に入っても12日時点で5%上昇した。住宅メーカーを中心に株価が上昇し、ETF価格を押し上げている。

大手住宅メーカーのDRホートンは12日時点で22年末比の上昇率が7割と大きい。23年10~12月期は売上高に対する税引き前利益の比率が16.1%と、5年前の18年10~12月期に比べて5.5ポイント改善した。経営陣は今年1月の決算説明会で「住宅は新築と中古の両方で買いやすい価格の物件供給が依然として限られている」との見方を示した。

同じく住宅建設のレナーやパルト・グループの株高も目立つ。断熱材のトップビルド、セメントのイーグル・マテリアルズなど住宅資材を手掛ける銘柄への買いも旺盛だ。

半面、ホームセンター株は伸び悩んでいる。12日時点では22年末比でホーム・デポが8.5%高、ロウズは16.4%高と、多くの機関投資家が運用指標にするS&P500種株価指数の上昇率(33.4%)を下回る。需給の逼迫が利益率の改善につながった住宅メーカーと比べ、小売りの業績拡大期待は盛り上がりにくいようだ。

住宅価格の高止まりが続けば家賃の上昇圧力が解消せず、米国のインフレ沈静化が遠のく要因になりかねない。最近は移民の急増が住宅市場の需給にも影響しているという見方がある。ロシア、カナダに次いで国土面積が世界で3番目に大きい米国でも、人口増が続くなかでは住宅を巡る問題を解決するのは簡単ではない。

住宅関連株の値動き(上昇率は22年末~24年4月12日)

銘柄名(チッカー) 主な事業 上昇率
DRホートン(DHI) 住宅建設 70.10%
レナー(LEN) 住宅建設 76.60%
NVR(NVR) 住宅建設 69.40%
パルト・グループ(PHM) 住宅建設 2.4倍
トール・ブラザーズ(TOL) 住宅建設 2.4倍
KBホーム(KBH) 住宅建設 2.0倍
テイラー・モリソン・ホーム(TMHC) 住宅建設 87.10%
スカイライン・チャンピオン(SKY) 住宅建設 53.70%
ロウズ(LOW) ホームセンター 16.40%
ホーム・デポ(HD) ホームセンター 8.50%
シャーウィン・ウィリアムズ(SHW) 塗料 34.10%
トップビルド(BLD) 断熱材 2.7倍
レノックス・インターナショナル(LII) 空調 96.90%
オーウェンス・コーニング(OC) 屋根材 94.00%
トレックス(TREX) デッキ・手すり 2.2倍
イーグル・マテリアルズ(EXP) セメント 91.80%
UFPインダストリーズ(UFPI) 木材 45.90%
ビルダーズ・ファーストソース(BLDR) 資材・建設支援 2.9倍

著者名

NQNニューヨーク 川上 純平


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